
7月中旬を過ぎると、暑さはいよいよ本番です。熱中症で救急車を呼ぶ場面も増えるなか、いざ119番を押す手が「有料では」と止まることも。日本では出動・搬送は原則無料ですが、費用がかかる場面や有料化の動きもあります。
救急車の出動・搬送は、原則として無料
日本では、市町村の消防(消防本部)が消防法にもとづいて行う救急業務として、救急車が出動します。利用者から料金を取る定めがなく、税金で運営されているため、搬送そのものに費用は原則かかりません。
全国どこでも、119番で呼べば無料で駆けつけてくれます。所得や加入している保険にかかわらず、救急車で運ばれること自体にお金を請求されることはありません。
まずはこの前提を押さえたうえで、「では、どこからお金がかかるのか」を見ていきます。
「救急車代」は無料でも、ここからはお金がかかる
気をつけたいのは、無料なのは「救急車での搬送」までという点です。運ばれた先の病院でかかる診療費や治療費は、ふだんの通院と同じく自己負担になります(健康保険が使えます)。
また、緊急ではない転院や移動を、民間の患者搬送サービス(いわゆる民間救急)に頼む場合は有料です。これは消防の救急車とは別のサービスで、料金は事業者ごとに決まっています。
つまり「救急車を呼ぶこと」自体は無料でも、そのあとの医療や、別サービスの利用にはお金がかかる、という線引きです。
紹介状なしで大きな病院にかかったときは請求される
ここで混同しやすいのが「選定療養費」です。紹介状を持たずに、特定機能病院、一般病床200床以上の地域医療支援病院、一般病床200床以上の紹介受診重点医療機関を受診すると、初診の「特別の料金」として医科7,000円以上、歯科5,000円以上がかかります(厚生労働省)。
これは救急車の料金ではなく、大きな病院に紹介状なしでかかることへの上乗せです。厚生労働省の案内では、救急の患者は「特別の料金」を求めてはならない患者に含まれています。
「救急車を使うと選定療養費を取られる」と思われがちですが、本来は別の話、というのが押さえどころです。
一部の地域で始まった、救急搬送への「選定療養費」
最近話題になったのが、救急で運ばれた場合にもこの選定療養費を求める自治体の動きです。三重県松阪市では、2024年6月1日午前8時30分以降、市内の三基幹病院で、救急車で搬送されても基本的に入院に至らなかった軽症の人を選定療養費の対象とし、7,700円(税込)を求める運用を始めました。茨城県でも、2024年12月2日から県内の対象病院で、救急車要請時の緊急性が認められない救急搬送に選定療養費を徴収しています。長崎市でも、2026年7月1日から長崎医療圏内の3病院で、救急車要請時の緊急性が認められない救急搬送に7,700円(税込)の選定療養費を徴収する運用が始まっています。
いずれも対象外となるケースがあります。松阪市では紹介状を持参した人や入院に至った人、医師が必要と判断したケースなどが除かれます。茨城県では公費負担医療制度の対象者などのほか、救急車要請時の緊急性が認められる場合は徴収の対象外です。長崎市の公表資料では、救急車要請時の緊急性が認められない救急搬送を徴収対象としています。長崎大学病院・長崎原爆病院で時間外に受診した場合は、別途時間外選定療養費5,500円(税込)が徴収される場合もあります。安易な受診を控えてもらい、地域の救急医療を守ることが狙いだとされています。
ここで大事なのは、これは救急車そのものの料金ではなく、病院での選定療養費という位置づけだという点です。茨城県・長崎市では、救急車要請時に緊急性が認められる場合は徴収の対象外です。松阪市では入院に至った人などは対象外で、個別の病院・医師が患者の状況も踏まえて判断します。安易な利用を控えてほしい、という趣旨の取り組みです。
では、有料化はこれから広がるのか
背景にあるのは、救急需要の高止まりです。消防庁の令和7年中速報値では、救急出動件数は768万6,235件、搬送人員は676万1,871人で、前年よりわずかに減少しました。一方、搬送人員のうち軽症(外来診療)は310万231人で、構成比は45.8%と、なおおよそ半数です。限られた救急の力を、本当に必要な人へ向けられるかどうかが課題になっています。
とはいえ、全国一律で救急車そのものを有料にする議論は、慎重な段階です。厚生労働省の「上手な医療のかかり方」でも、緊急性が高いと判断した時は迷わず救急車を要請するよう案内しています。判断に迷って呼び遅れることのほうが、命に関わるからです。
迷ったときの窓口も用意されています。地域によっては、救急車を呼ぶべきか相談できる「#7119(救急安心センター)」、子どもの急な体調不良には「#8000(子ども医療電話相談)」が使えます。
いざというときは迷わず、ふだんは適正な利用を
救急車の搬送は原則無料で、緊急のときにためらう必要はありません。一方で、無料なのは搬送までで、病院の医療費や選定療養費は別にかかること、一部の地域では、入院に至らない軽症のケースや、救急車要請時の緊急性が認められないケースなどで、救急搬送でも選定療養費を求める運用が出ていることは、知っておくと安心です。
「呼ぶべきか迷う」ときこそ、#7119などの相談窓口が役に立ちます。本当に必要なときにためらわず、ふだんは適正な利用を心がける。それが、自分と周りの人の「もしも」を守ることにつながります。


