
お盆に久しぶりに実家へ帰ると、親の外出や買い物の変化から老後の暮らしが気になることがあります。「年金があるから大丈夫」と思っていても、医療費や物価高で貯蓄を取り崩す家庭も少なくありません。親が元気な今こそ、年金額や支出、これからの備えを家族で確認しておきましょう。
まず確かめたい、親の年金の受給見込み
老後の家計を考えるとき、最初にすることは「いくら受け取れるか」を知ることです。公的年金は、全員が対象の国民年金(老齢基礎年金)と、会社員や公務員が上乗せで受け取る厚生年金の2階建てになっています。まずここを押さえると、足りない分がどのくらいなのかが見えてきます。
老齢基礎年金は、40年間保険料を納めた満額で、令和8年度は昭和31年4月2日以後生まれの方が月70,608円、昭和31年4月1日以前生まれの方が月70,408円です。厚生年金があればここに上乗せされますが、自営業だった親なら基礎年金だけというケースも珍しくありません。日々の生活費がこの受給額を上回っていれば、その差は貯蓄から補うことになります。
見込み額は、毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」や、日本年金機構の「ねんきんネット」で確認できます。帰省のタイミングで親と一緒に一度目を通しておくと、この先の家計の話がぐっと具体的になります。ここから先は、受け取り方を工夫する、長く働く、自分たちで積み増す、支出と公的な支えを見直す、という順に見ていきます。
受け取り方で増やす、繰下げ受給という選択
気になるのが、同じ年金でも「いつから受け取るか」で金額が変わる点です。受給開始を65歳より遅らせる繰下げ受給を使うと、1か月遅らせるごとに0.7%ずつ増え、昭和27年4月2日以後生まれの方は75歳まで待てば最大84%の増額になります。昭和27年4月1日以前生まれの方などは、繰下げの上限年齢が70歳で、増額率は最大42%です。しかもこの増えた金額は、その後の受給中ずっと続きます。
反対に、65歳より早く受け取る繰上げ受給もできますが、昭和37年4月2日以後生まれの方は1か月あたり0.4%の減額です。60歳まで早めると最大24%減り、減った状態が一生続きます。昭和37年4月1日以前生まれの方は1か月あたり0.5%、最大30%の減額となります。手元の生活費が厳しいと前倒ししたくなりますが、長生きするほど総額では不利になりやすい点は覚えておきたいところです。
親がまだ受給前で、当面の生活に余裕があるなら、繰下げは有力な選択肢です。一方で健康状態や貯蓄の状況によって、向き不向きは変わります。繰下げと繰上げのどちらが合うかは、親の暮らし方に沿って考えるのが現実的です。
長く働くという、もうひとつの備え
将来にも触れておくと、収入を支える柱は年金だけではありません。定年後も無理のない範囲で働き続ければ、その分だけ貯蓄の取り崩しを減らせます。短時間のパートや再雇用など、働き方の選択肢は以前より広がっています。
ここで知っておきたいのが、働きながら厚生年金を受け取る場合の「在職老齢年金」という仕組みです。給与と年金の合計が一定額を超えると、年金の一部が止まることがあります。令和8年度は、老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額の合計が65万円を超える場合に調整の対象です。ただし止まるのは超えた分に応じた範囲で、働くと必ず損をするわけではありません。基準となる金額は改定されることがあるため、勤務先や年金事務所で確認しておくと安心です。
働くことは、家計を支えるだけでなく、生活のリズムや人とのつながりを保つことにもつながります。親が「まだ働きたい」と思えるうちは、その気持ちを後押しするのも立派な備えの一つです。
自分たちで積み増す、iDeCoやNISA、自営業の上乗せ
そのうえで、公的年金に自分たちで上乗せする方法もあります。代表的なのが、掛金が所得控除の対象になるiDeCo(個人型確定拠出年金)と、運用益が非課税になるNISAです。いずれも早く始めるほど時間を味方にできますが、投資である以上、値動きで元本を下回る可能性がある点は理解しておく必要があります。
自営業やフリーランスだった親には、上乗せ専用の制度もあります。国民年金に少し多く納めて将来の受給を増やす付加年金、まとまった上乗せができる国民年金基金、廃業や引退に備える小規模企業共済などです。会社員のように厚生年金がない分、こうした制度で補っておくと将来の受給に差が出ます。
これらは親自身が加入者になるものですが、子世代が仕組みを知っておくと、帰省時の会話で「こういう制度もあるよ」と橋渡しができます。制度によって加入できる年齢や条件が決まっているため、早めに調べておくほど選べる幅が広がります。
支出の見直しと、いざというときの公的な支え
最後に、収入と同じくらい大切なのが支出の側です。通信費や電気代、使っていないサブスクや重複した保険など、毎月かかる固定費は一度見直すと効果が長く続きます。大きく生活を切り詰めなくても、固定費の点検だけで家計の余白は生まれます。
それでも生活が立ち行かないときのために、公的な支えがあることも知っておきたいところです。年金や貯蓄、働いても暮らしていけない場合には、生活保護という最後のセーフティネットがあります。ためらう方も多いですが、必要なときに使える正当な制度です。生活保護の相談・申請は、お住まいの地域を所管する福祉事務所の生活保護担当が窓口です。高齢期の暮らしの困りごとは、地域包括支援センターに相談することもできます。
家族の支援も選択肢の一つです。ただし子世代の家計を圧迫しては本末転倒になりかねません。誰が何をどこまで担うのかを元気なうちに家族で話しておくことが、いざというときの安心につながります。
親が元気なうちに、話せることから
親の老後家計は、一度に全部を決める必要はありません。まず受給見込みを確かめ、受け取り方を考え、働き方や積み増し、支出の見直しへと、できるところから順に手をつければ十分です。年金だけで足りるかどうかは、親の働き方や暮らし方で変わります。大切なのは、判断に迫られる前に選択肢を知っておくことです。お盆で顔を合わせる今こそ、親の希望を聞きながら、話せることから始めてみてはいかがでしょうか。


