
夏休みは自転車で出かける機会が増え、軽い接触事故も起こりがちです。相手に「大丈夫」と言われても、その場を離れてはいけません。自転車は法律上の軽車両で、事故後は救護と警察への報告が必要です。2026年4月に始まった青切符制度や、事故後に取るべき行動、保険の備えを順番に整理します。
自転車事故の直後にやること
道路交通法上、自転車は「軽車両」に当たる車両です。事故に遭ったときも、起こしたときも、まず安全を確保して負傷者を救護し、次に警察へ報告する。そのうえで相手と連絡先を交換し、加入している損害保険会社へ相談します。
救護は礼儀ではなく道路交通法第七十二条第一項前段が定める義務で、加害者側であっても放置は許されません。続く同項後段が、警察への報告を義務づけています。
この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。同項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置(第七十五条の二十三第一項及び第三項において「交通事故発生日時等」という。)を報告しなければならない。
報告義務を負うのは、事故に関係した車両等の運転者です。あわせて、あとの連絡や示談に備え、相手と氏名、住所、電話番号、自転車の防犯登録番号、加入している損害保険会社の名前と契約番号を控えておくと安心です。これらは法律上の義務ではありませんが、実務では欠かせない準備です。気をつけたいのが、原因や責任の割合をその場で決めつけないことです。
交通事故証明書を出すのは警察ではない
事故のあと必要になる「交通事故証明書」を発行するのは、警察ではありません。自動車安全運転センターで、その中身は「警察から提供された証明資料に基づき、交通事故の事実を確認したことを証明する書面」です。原因がどちらにあるか、責任の割合が何対何かを判断・証明する書類ではありません。
それでも保険金の請求や損害賠償の交渉では、この書面が入り口になります。そして交通事故証明書は、警察に届け出た事故についてしか出ません。相手が「大丈夫」と言って立ち去ろうとしても、そこで終わらせてはいけない理由がここにあります。人身事故は事故発生から5年、物件事故は事故発生から3年を経過すると原則交付できません。
2026年4月から始まった自転車の反則金
自転車の一定の交通違反に交通反則通告制度を導入すること等を内容とする「道路交通法の一部を改正する法律」(令和6年法律第34号)が令和8年4月1日、つまり2026年4月1日から施行され、検挙された後の手続が変わっています。いわゆる「青切符」で、すでに現行の制度です。ただし、違反を見つけたら即青切符というわけではありません。警察庁は、自転車の交通違反を認知したときは基本的に現場での指導警告にとどめ、歩行者や他の車両に危険や迷惑を及ぼす悪質・危険な違反を検挙する方針を示しています。青切符は、その検挙の対象になった16歳以上の人への処理です。警察庁はこの制度をこう説明しています。
反則行為をした16歳以上の者が検挙されると、定額の反則金の納付が通告され、その通告を受けた者は、反則金を任意に納付したときは、刑事手続に移行することなく、その反則行為に係る事件について起訴されない(いわゆる「前科」もつかない)という制度をいいます。
かつて「自転車の違反は罰金」と語られてきた部分は、16歳以上の人が悪質・危険な違反で検挙されたとき、青切符(反則金)による処理へと変わりました。公式に額が示されている主な違反は、通行禁止違反が5,000円、携帯電話使用等(保持)が1万2,000円です。

自転車を運転中に携帯電話等を手に持って通話したときや、手に持った画面を注視したときが後者に当たり、この1万2,000円は自転車の反則金中で最も高額です。ただし「携帯電話使用等(交通の危険)」は反則行為に該当せず刑事手続で処理され、1年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金が科されます。青切符で済むとは限りません。反則行為を原因として交通事故を起こした場合のほか、重大な違反、その場で住所や氏名を明らかにしない場合や逃亡した場合、反則行為の成否を争う場合などは、青切符ではなく刑事手続で処理されます。
自転車事故で問われる刑事と民事の責任
刑罰の呼び名から更新が要ります。懲役と禁錮を拘禁刑に一本化する「刑法等の一部を改正する法律」(令和4年法律第67号)が令和7年6月1日に施行され、現在の刑法の刑名は「懲役」「禁錮」から「拘禁刑」に改められています。
不注意で他人にケガをさせれば、過失傷害罪で30万円以下の罰金又は科料です。これは親告罪で、刑法第二百九条第二項は「前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。」と定めます(「申告罪」という罪はありません)。死亡させた場合は過失致死罪で50万円以下の罰金、重大な不注意ならさらに重くなります。
(業務上過失致死傷等)第二百十一条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
事故そのものとは別に問われる責任もあります。警察への報告を怠れば報告義務違反で、道路交通法第百十九条は「次の各号のいずれかに該当する者は、三月以下の拘禁刑又は五万円以下の罰金に処する。」と定め、その第一項第十七号が「第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項後段に規定する報告をしなかつた者」です。「第119条10項」とする解説は誤りです。救護せずに立ち去れば、救護義務違反としても処罰され得ます。
民事上の責任は、治療費、入通院慰謝料、休業損害、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料、逸失利益といった損害の補償です。賠償額は被害の大きさや過失割合などで決まるため一律の相場はなく、自転車でも高額になり得ます。
自転車事故に備える保険と、自治体の条例
最初に外しておきたい誤解があります。自転車自体は自賠責保険の加入対象ではありません。自動車損害賠償保障法第二条が「この法律で「自動車」とは、道路運送車両法(昭和二十六年法律第百八十五号)第二条第二項に規定する自動車(農耕作業の用に供することを目的として製作した小型特殊自動車を除く。)及び同条第三項に規定する原動機付自転車をいう。」と定義し、軽車両の自転車は含まれません。同法第五条が契約の締結を強制しているのも、この「自動車」についてです。警察庁も自転車について「自動車賠償責任保険 不要(条例で、自転車損害賠償責任保険への加入が義務とされている都道府県がある)」と記載しています。自転車を対象に加入できない以上、「賠償が足りないから自賠責保険にも入る」という選択肢はありません。
「自転車保険への加入は任意」という説明も、全国一律では成り立ちません。国土交通省は「令和6年4月1日現在、34都府県において、条例により自転車損害賠償責任保険等への加入を義務化、10道県において努力義務化する条例が制定されています。」としています。同日時点で未制定は島根県、長崎県、沖縄県の3県です。条例ごとに義務の対象者は異なります。
相手への賠償に備えるのが個人賠償責任保険で、日常生活で他人にケガをさせたり物を壊したりしたときの損害賠償を補償し、自転車事故を対象とする商品があります。補償額や対象者は商品ごとに異なります。自動車保険・火災保険・傷害保険に付帯していることもあるので、新たに入る前に手元の証券を確認してください。
自分のケガに備えるのが傷害保険です。自転車保険にはこの2つをまとめ、相手への賠償の補償と、自身のケガの補償の2本立てにした商品があります。
相手が「大丈夫」と言っても、その場で終わらせない
自転車は軽車両です。事故を起こせば刑事と民事の責任が問われ、報告を怠ればそれ自体が罪になります。今春からは16歳以上の人が悪質・危険な違反で検挙されたとき、青切符で処理されます。それでも、やることの順番は変わりません。安全確保と救護、警察への報告、連絡先の交換、保険会社への相談。交通事故証明書が出るのも、届け出た事故だけです。備えの側は、自治体の条例と手元の保険の付帯内容から確かめてください。


