
障害のある子を育ててきた親にとって、自分たちが先にいなくなったあとの暮らしは重い心配ごとです。預金や自宅を残せても、そのお金を管理して使い続けられるかまでは、渡すだけでは決まりません。信託なら、財産を託したうえで渡し方や子のあとの承継先まで書き残せます。何ができるのかを確かめて、家族で話し始めてみませんか。
知的障害のある子と暮らす60代夫婦が決めきれずにいたこと
「私たちが先にいなくなったあと、この子はこのお金を守れるだろうか。」都内で暮らす60代の夫婦がそう話します。知的障害のある子との3人暮らしで、預金と自宅を残すつもりでした。
ただ、遺言を書いても決まるのは渡すところまでで、その先が見えません。まとまった額が子の名義になったとき、日々の出し入れをだれが担うのか。数年のあいだ、書き上げられないままでした。
名義を預けて管理を任せ、受け取る権利だけを子に残す
信託は、財産を持つ人が信頼できる相手に財産を移し、決めた目的に従って管理や処分をしてもらう仕組みです(信託法2条)。託す親が委託者、預かる側が受託者、利益を受け取る子が受益者にあたります。まとまった額を一度に渡すのではなく、毎月の生活費として定期的に届ける、という渡し方まで決めておけます。
気がかりなのは、名義を人に移して大丈夫なのかという点でしょう。

子のあとに渡す相手まで、あらかじめ書いておける
信託では、受益者が亡くなったときに別の人が新たに受益権を取得する、という定めを置けます。順次ほかの人へ移っていく形も認められています(信託法91条)。子の生活を支え終えたあとに残った財産を、支えてくれた親族へ渡すところまで親が決められます。
ただし、永久に続くわけではありません。同じ条文は、信託がされた時から30年を経過した時以後に受益権を取得した受益者が死亡するまで、または受益権が消滅するまで効力を有する、と期間を区切っています。世代をまたいで際限なく引き継がせることはできません。
贈与税がかからない枠は、信託会社などに託したときに使える
親が生前に財産を移すとき、次に気になるのが贈与税です。特定障害者を受益者とする特定障害者扶養信託契約を結び、障害者非課税信託申告書を提出すると、信託受益権の価額のうち特別障害者に当たる場合は6,000万円、特別障害者以外の特定障害者では3,000万円までが贈与税の課税価格に算入されません(相続税法21条の4)。
この枠には条件が付きます。受託者になれるのは信託会社と信託業務を営む金融機関に限られ(相続税法施行令4条の9)、親族に管理を任せる形の信託では使えません。申告書は信託がされる日までに、受託者の営業所等を経由して納税地の所轄税務署長へ提出します。契約は子が亡くなった日に終了します。
書き始める前に、託す先と使い道を家族で言葉にする
信託を使えば、渡し方から子のあとの承継先まで決めておけます。ただし誰に託すか、どの財産を入れるか、贈与税の枠を使うかで組み立ては変わります。まずは子の暮らしに毎月いくら必要かを書き出し、そのうえで弁護士や司法書士、税理士などの専門家、自治体の障害福祉の窓口へ相談を。形にできるのは、親が元気なうちだけです。


