中高年のひきこもり61.3万人 「働けない子ども」が親亡き後を生き抜く「サバイバルプラン」とは【前編】

今年の春、40歳から64歳までの中高年のひきこもりが61.3万人いるという調査結果が発表されました。

過去には、39歳までのひきこもりが54万人という調査が出ていますので、2つの調査を合わせますと、ひきこもりの人が115万人以上いる現実に、衝撃を受けた方も多いかもしれません。

そのような中で私は、27年ほど前から、「働けないお子さん」のいるご家庭向けに生活設計のアドバイスをおこなっています。

働けない子どもが親亡き後を生き抜く「サバイバルプラン」とは

引きこもりのお子さんがひとりで生きていくために

働けないお子さんが、親御さんが亡くなられた後の人生を、ひとりで生きていくためのプランを提案してきています。

遺されたお子さんが生き抜いていくプランであるため、「サバイバルプラン」と名付けています。

調査では、ひきこもりになった原因の第1位が「退職」となっていましたが、私がご相談を受けるケースでは、「正社員」であったり、「年単位」で働いた経験のあるお子さんは、1割もいません。

9割以上のお子さんが、中学や高校、あるいは大学時代に不登校を経験したのち、働くことができないまま、現在に至っています。
 
働けない原因は、発達障がいやコミュニケーション障がい、統合失調症など、何らかの障がいが原因になっているお子さんも多くいます。

障がい年金

それらの障がいを原因として、ご相談者の半分くらいは、障がい年金を受給しています。

障がい年金は障害基礎年金2級を受給している方がほとんどで、ひと月約6万5,000円の障がい年金を受け取っています

障がい年金はお子さん名義の口座に入金されるため、お子さんが自由に使っているケースが多いですが、お子さんが自由に使えるお金は1万5,000円程度に抑え、ひと月5万円くらいは、「親亡き後」に備えて貯蓄に回してもらっています

20代や30代から障がい年金の多くを貯蓄に回せれば、親御さんが亡くなるまでに1,000万円を超える貯蓄が築けます

お子さんが受け取る障がい年金を貯蓄に回すだけでも、サバイバルプランは立ちやすくなるのです。

障がい年金を受給していないケースでもサバイバルプランは立てられる

現在の生活状況をきちんと認識してサバイバルプランを立てる事

障がい年金を受給していないケースでも、アルバイトや就労支援を受けて働くことで、サバイバルプランが立てられるケースはたくさんあります。

親御さんは

「できれば自立できるように、15~20万円くらいの収入を得てほしい」

と願いますが、一度も正社員として働いたことがないお子さんには高すぎる目標額だと感じます。

そこで、「アルバイト代としてお子さんが3~5万円くらい稼げれば、サバイバルプランが成り立ちそうですよ」などと、伝える機会もあります。

実際に、稼ぐべき目標額が3万円や5万円などに下がることで、アルバイトに行けるようになったり、就労支援を受けて働けるようになったお子さんはたくさんいることもお伝えしています。

サバイバルプランは、「お子さんがこの先も、正社員として働くことは無理」という前提で考えますので、そのことを聞くと悲しそうな表情を見せる親御さんも少なくありません。

そのいっぽうでサバイバルプランを立ててみると、「ひと月3万円の稼ぎでも、なんとかなりそうだ」とわかって、安心される親御さんもたくさんいます。

親御さんが現在の生活状況をきちんと認識したり、自分が亡くなった後のことに目を向け、覚悟を持って準備を進めていけば、お子さんが正社員になれなくても、サバイバルプランが作れるご家庭はたくさんあることを、知ってほしいと願っています。

サバイバルプランのスタート地点は、親が亡くなったとき

サバイバルプランの スタート地点は 親が亡くなったとき

サバイバルプランを立てる際は、親側の生活設計を整理することからスタートします。

ご相談を受けていると、

「自分たちの生活のことはいいから、自分たちが死んだ後の子どもの生活について、アドバイスが欲しい」

といわれる機会が少なくありません。

親の生活設計から考えるのが順当です。

サバイバルプランのスタート地点は、親御さんがふたりとも亡くなった時点になるからです。

言い換えれば、親御さんが亡くなる時点でいくらくらいの貯蓄を遺せそうかを見積もらなければ、サバイバルプランは立てられません

ところが、働けないお子さんがいるご家庭では、親側の生活設計を立てているケースはかなりの少数派

たとえば、現在の生活で「年間でいくらくらいの赤字が出ているのか」をつかんでいるご家庭はほとんどありません

年間の赤字が判らなければ、親が亡くなるとき、お子さんにいくらくらいの貯蓄を遺せるのかを見積もることはできないにもかかわらずです。

働いていないお子さんの生活の面倒をみているご家庭では、年金生活での赤字額が、お子さんが自立されているご家庭に比べて多いケースが目立ちます。

サバイバルプランを考えるどころか、親側の想定寿命まで、貯蓄が持たないと感じるケースも増えています

そういうご家庭は、早急に現在の生活費の支出内容の見直しが必要になります

介護が必要な状態になった場合

自宅での介護を希望するのか、施設への住み替えを希望するのかなどを具体的に考えているご家庭もほとんどありません。

働けないお子さんがいるご家庭では、介護状態になるイメージを持っていないのが一般的で、万が一介護が必要になってもお子さんとは同居すると考えている方がほとんどです。

ですが、お子さんが介護を担うのは難しい現実があります。

27年も相談を受けていると、親御さんが80代や90代になられるなど、介護状態になったご家庭をたくさん見てきていますが、多くのケースで在宅介護はうまく機能していません。

ケアマネージャーがきちんとケアプランを作成しても、他人が自宅に上がるのを嫌うお子さんが、ヘルパーさんを追い返すケースが少なくないからです。

そういう意味では、働けないお子さんがいるご家庭での親御さんの「介護」は、施設で受ける方が現実的だと感じます

そのためにも動けるうちに、居住地の周辺の施設の値段や特別養護老人ホームの待機人数などを調べてもらうように促しています

親の寿命は「長寿」を想定しておく

長生きする前提で考える

サバイバルプランを立てる際、難しいのは「親の寿命」の設定です。

何歳まで生きられるかは誰にも分かりませんが、父親ひとりで面倒をみている場合は「90歳」、母親がいる場合は「95歳」まで生きると仮定してプランを立てます

親御さん自身が思うよりも、「長生きする」前提で考えます

資金計画において、長寿はリスクになるからです。

宿泊型の支援施設に頼りすぎない

少し話は変わりますが、サバイバルプランを立てている中で残念に感じる機会が増えているのは、宿泊型の支援施設に大金を支払ったのに、就労に結び付いていないケース。

数百万円にもおよぶお金を数回にわたって支払ったものの、回復しないどころか、以前より悪化してしまったケースに出会う機会も増えてきました。

支援施設に入所するまでは、親との会話ができていたのに、退所後は親さえも信じられなくなり、自室にひきこもってしまい、まったく会話ができなくなったケースも数例ではありません。

宿泊型の支援施設を否定するつもりではありませんが、「自宅から出せば、すべてがうまくいく」とは思い込まないほうが現実的だと、ご相談者を見ていて感じます

宿泊型の支援施設の場合、親が持つ貯蓄が急激に減ってしまうため、サバイバルプランが立てにくくなることも知っておいて欲しいと考えています。

食事作りを教えるのも、サバイバルプランでは重要なポイント

親御さんの生活状況をチェックしている中で、年間の赤字が多すぎる場合は、現時点での支出内容の見直しアドバイスをおこないます

これは個人的な印象になりますが、働けないお子さんは、偏食というか、好き嫌いが激しい人が多いように感じています。

そのため、親御さんはお子さんの好き嫌いに配慮した食材を選んだり、自分たちとは別の献立を作ったり…と、収入に対する食費の割合が多いケースが見受けられます。

お子さんの食事については、「親亡き後」に備える訓練が必要だとアドバイスをしています

働いていないお子さんは、お昼過ぎに起きてくるケースも多く、親御さんが作るのは主に昼食と夕食。

お子さん自身がご飯を作れるケースは、親が元気なうちから、自分が食べるご飯づくりを任せるのが理想です。

まずはご飯の炊き方から教え込んでもらう

まずはご飯作りから

ご飯を作ったことがない場合には、まずご飯の炊き方から教え込むように促しています

具体的な方法として、5合炊きの炊飯ジャーであれば、5合まとめて炊く方法を教えてもらっています。

炊いたご飯のうち、当日と翌日分を除いた残りのご飯は、ラップの上に小分けして乗せ、冷めたら冷凍庫に保存してもらいます

そして昼食か夕食のどちらかは、ご飯を電子レンジで解凍してもらい、おかずは缶詰や瓶詰、のり、納豆など、「親亡き後」でも調達ができそうな食材を利用してもらうようにアドバイスしています。

実際には、お子さんが不自由な思いをしているのを見ていられない親御さんが多いので、お子さんが自分で食事の準備ができるようになるまでは、昼食時、あるいは夕食時に

「ひと月くらい外食をするなど、お子さんが自分で食事作りをしなければならない環境を作ってもらえませんか」

とお願いしています。

おいしいご飯を食べさせてあげたいい願う親御さんには酷な話ですが、一人でご飯を作れないままのお子さんを遺していくことのほうが、問題は大きいと思います。

生活コストを抑えられる見込みがあるほど、親が残すべき貯蓄も抑えられます

親亡きあと、出来合いのお弁当などで食事を済ませるようになると、食費が抑えにくいだけではなく、食べ残した食材は「生ごみ」としてたまっていきます。

朝早いゴミ収集の締め切り時間までに、ゴミが捨てられなければ、生ゴミが堆積していく可能性もあります。

生ゴミを捨てられない不衛生な家になってしまうかもしれないのです。

お子さん自身がご飯を炊けるようになると、出来合いのものを買って食べるより食費を抑えられます

お子さんの生活コストを抑えられる見込みがあるほど、親が残すべき貯蓄を抑えられます

買い物に出られないお子さんの場合は、食材を届けてもらえる方法を探すことも必要です。

受け取るときに、人と顔を合わせられないのであれば、保冷材入りの箱を玄関に置いてもらえる業者を探す必要もあります。

「親亡き後」を想定して、お子さんがご飯を食べて行けるようにトレーニングしてあげることも、サバイバルプランのポイントになっています。(執筆者:畠中 雅子)

この記事を書いた人

畠中 雅子 畠中 雅子»筆者の記事一覧 (8)

ファイナンシャルプランナー
大学時代にフリーライター活動をはじめ、マネーライターを経て、1992年にファイナンシャルプランナーになる。新聞・雑誌・ウエブなどに多数の連載を持つほか、セミナー講師、講演、相談業務などをおこなう。教育資金アドバイスをおこなう「子どもにかけるお金を考える会」、高齢者施設への住み替え資金アドバイスをおこなう「高齢期のお金を考える会」、ひきこもりのお子さんを持つご家庭向けに生活設計アドバイスをおこなう「働けない子どものお金を考える会」を主宰。著書・監修書は60冊を超える。現在、世界中のミニチュアパークやジオラマ展示を訪問中。詳しくはブログにて、http://miniatureworld.jp/
<保有資格>:CFP®、総合旅行業務取扱主任者
【寄稿者にメッセージを送る】

畠中 雅子の著書

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