
筆者は、昨年2月に以下のタイトルで教育資金準備に関するコラムを寄稿した。(
「子どもが生まれたら、学資保険に加入!」はもう時代遅れ?)
幸いにも多くの読者にこのコラムを読んで頂き、そもそも教育資金準備はライフプランの中でどういう位置づけにあるのか? また、何に着目して学資を準備すればよいのか? といった観点について、筆者の考え・提言をお伝えすることができたと思います。まだ読まれていない読者の方々は是非読んで頂ければ幸いです。
目次
郵便局の学資保険「はじめのかんぽ」の実力
さて、昨年4月に郵便局で新しい学資保険の取り扱いが始まった。この学資保険は「はじめのかんぽ」という商品名である。
従来、郵便局で販売されていた学資保険は被保険者である子どもの医療特約等が比較的充実していることから、戻り率、つまり保険加入期間中に払った保険料に対して、学資金・祝い金の受取金額の合計がどのくらいになるかをパーセント表示した「返戻率」が100%を割り込む“元本割れ”の状態であったが、新商品では返戻率が100%を超え、学資保険にとって重要な商品性の一つである利回りが向上した。
しかしながら、民間生保が提供する利回り重視の学資保険商品と比べると、「はじめのかんぽ」の返戻率はいまだ劣っているといわざるを得ない。
以下の商品比較は、学資保険加入において、契約者(父親)30歳・被保険者(子ども)0歳・全期間払込18歳満期・祝い金なし(大学入学時に学資金を一括で受け取る)といった諸条件をそろえた。
月額保険料8,897円・学資金200万円・返戻率110.1%
日本生命「ニッセイ学資保険」
月額保険料12,620円・学資金300万円・返戻率110.0%
ソニー生命「学資保険Ⅱ型」
月額保険料12,630円・学資金300万円・返戻率109.9%
かんぽ生命「はじめのかんぽ」
月額保険料13,380円・学資金300万円・返戻率103.8%
返戻率を比較した結果は、富国生命「みならいのつばさ」が利回りで1位となったが、ソニー生命・日本生命・富国生命の上位3社の学資保険は利回りでほとんど大差はない。
残念ながら、かんぽ生命は返戻率ではいまだに見劣りしていると言わざるを得ないことがあらためて分かったが、「はじめのかんぽ」には子どもの医療特約(傷病・障害時の入院給付金や手術給付金が受け取れる)が従来同様付加(手厚かった子どもの死亡保障がやや削減されたという保障内容の変更はある)されている利点は残されている。
最も良い教育費の準備方法

昨年のコラムで、筆者が示した教育費準備における重要なポイントをあらためてまとめてみよう。
✔保険商品であれ預貯金や国債等他の金融商品であれ、運用利回りの高さで比較するのがシンプルな商品選びのポイントである
✔子どもの死亡保障や医療保障を確保したい場合は、教育費準備とは明確に分けること。子どもの死亡保障はそもそも必要がないし、医療保障であれば、保険料がより易くて商品性がシンプルな掛け捨ての共済等が適当である。
✔学資保険に加入するなら、中学入学や高校入学時に祝い金が受け取れるタイプのものではなく、大学入学時に学資金を一括で受け取るタイプを選ぶことで、返戻率を高めることができる。中学や高校入学時に祝い金が受け取れることを望むより、一番お金がかかる大学入学金・授業料を有利な利回りで準備したい。また、保険料払い込み期間を短縮することも返戻率を高める方法だ。
✔教育費準備は通常15~18年にわたる長期の資金運用になるため、市場環境の変化に応じてより有利な運用方法へ柔軟性を持って変更することも大切である。
上記の学資保険の比較で取り上げた返戻率110%の学資保険を選ぶと、年利回りは0.55%程度(税込かつ、返戻率を18年で割った単純な年利回り)になり、足もとの10年物国債の利回り(長期金利)が0.3~0.4%であることを踏まえると比較的有利な利回りに感じられる。
しかしながら、長期金利が将来上昇することは十分想定されるため、学資保険加入によって、教育費準備資金の利回りが長期にわたり固定されることが有利かどうかは分からない。
仮に1%を超える物価上昇・インフレが定着し、長期金利も1%以上になる状況になれば、学資保険の利回りはインフレに対応できず実質的価値が目減りすることも起こり得るのだ。
やはり、現時点で筆者が子どもの教育費準備としてお勧めする方法は、個人向け国債の購入だ。
購入単位が1万円以上1万円単位であるため、学資保険の月払い保険料とほぼ変わらず気軽に学資準備がはじめられる上、銀行の定期預金よりは金利ははるかに有利であり政府の元本保証が付く。
現在の利回り水準が、基準金利である長期金利が低位安定しているため、年0.24%(税引き前・変動金利10年・5月15日発行)と低いことが気になるが、変動金利であるため、将来のインフレ率上昇および長期金利上昇に連動して、金利は改定されるため、インフレへの対応はしっかりできるのは安心だ。
また、個人向け国債は発行から1年以上経過すれば、元本割れなく中途換金ができ、ネット銀行等で有利な利回りの定期預金が提供された際は、機動的に預け替えをすることが可能である。
尚、インフレ対応により適した国債商品として物価連動国債がある。
物価連動国債とは、物価が上昇すれば、それに応じて償還時に元本も増える国債である。長引くデフレで新規発行は停止されていたが、財務省は2013年10月に機関投資家向けに5年ぶりに発行を再開した。
今年から、一部の証券会社で個人も物価連動国債を購入できるようになったが、残念ながら販売が1000万円単位と富裕層向けであった。しかしながら、財務省は2016年10月をめどに、ゆうちょ銀行や地銀、信用金庫を通じて、個人が10万円単位で物価連動国債を購入できるように計画・準備をしている様である。教育費準備のため物価連動国債を是非検討してみよう。
学資保険で教育費準備をすることは、保険商品であること(親である契約者に万一のことがあれば、その後の保険料払込が免除される)のメリットと現時点の利回り水準を見る限りでは不利な運用方法とはいえないが、長期間、資金運用先が固定されることは、金融・投資環境の変化に対応する上ではあまり賢い方法とは言えないかもしれないというのが筆者の考えである。また、中途解約をすると大幅な元本割れとなるため、柔軟に預け先や運用商品を見直すことも難しい。
固定観念を捨て、将来の変化に対応した教育資金準備を
最後に申し上げておくが、筆者は学資保険の商品性を必ずしも否定しているわけではない。「子どもが生まれたら学資保険に加入する」のが当たり前という、従来からある固定観念にとらわれず、将来の金融情勢の変化に対応した教育資金準備を考えてもらいたいのだ。(執筆者:完山 芳男)