今年ももう11月半ばを過ぎました。あと1か月半で平成28年が終わります。会社員の方は年末調整の季節です。所得税が還付されるのを心待ちにしている人もいるのではないでしょうか?
医療費控除にいくまえに、「年末調整」と「確定申告」についておさらいしておきましょう。
目次
「還付と言えば…」
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生命保険料控除や地震保険料控除、医療費控除などが思い浮かぶと思います。
ところが支払った医療費分を減税してもらう(医療費控除)には会社の年末調整では対応できず、来年2月中旬にはじまる確定申告や還付申告が必要です。医療費といってもどこまでが医療費控除の対象でしょう?
このあたりも確認してみましょう。
「年末調整って何?」
ところで、年末調整とは何でしょう?
会社では、月に1回社員に、毎月所得税を差し引いて給与を支払っていますが、毎月差し引かれた所得税がその人の実際支払うべき所得税と通常は一致しません。一致しない理由は、年の途中で給与額や家族状況が変わったり、生命保険料控除などが人によって異なることなどがあります。
年末調整とは、会社員の給与から差し引かれた所得税と本来支払うべき所得税を調整する手続きです。時期的には、通常11月から1月に勤務先の会社で行われています。
「それじゃ、確定申告って何?」
では、確定申告とはなんでしょう?
確定申告は毎年2月中旬から3月中旬に行われ、前年1月から12月までの収入や所得を申告し、家族状況や医療費、住宅ローン、などその他の事情を考慮し、所得税を計算する手続きです。
例えば
会社員では、平成28年1月から12月までの年収から給与所得控除をひいたものが給与所得、自営業者なら収入から経費などを差し引いたものが事業所得です。
これらの所得から本人の基礎控除、扶養控除や配偶者控除、生命保険料控除や地震保険料控除などもさらに差し引いて課税所得を出し、そこに税率(5%から45%)をかけて所得税を計算します。
参考までに確定申告書を見てみましょう
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申告書B(pdf)です。左上に事業所得、不動産所得、配当所得、利子所得が給与所得の上にあります。事業所得を申告するなら、支払調書を医療費領収書と一緒に住所地の税務署へ持っていきます。
「確定申告と似ている…」給与をもらう先が1か所なら還付申告でOK。
還付申告は上記の計算と同じで、時期的には2月中旬から3月中旬に限らず行うことができて、申告用紙もかなり似ています。
1社だけから給与をもらっており、年収が2,000万円以下、他に不動産所得や配当所得、雑所得など20万円以上の所得がなければ還付申告扱いで大丈夫です。
給与所得が1ヶ所の会社員の医療費の還付申告なら、平成28年のものなら平成34年3月15日まで大丈夫です。領収書やレシートをつければ住所地の税務署へ郵送でも大丈夫です。
参考までに還付申告書をみてみましょう。
給与所得や公的年金だけの場合、申告書A(pdf)です。
左上、収入金額のところに申告書Bにはある事業所得、不動産所得、配当所得、利子所得が申告書Aにはなく、給与所得が一番上にあります。源泉徴収票も医療費領収書と一緒に住所地の税務署へ持っていきます。
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それでは、「医療費控除って何?」
医療費控除は、年末調整では処理されません。医療費の確認が会社では難しいからかも知れません。
医療費控除とは、生計を一にする(別居でも)配偶者や子供その他親族が病院にかかったとき、支払った自己負担の医療費から出産育児一時金や高額療養費、医療保険の給付金などを受け取った分は差し引いた額が、原則10万円以上支払った家庭では、その分所得から差し引いて所得税を計算します。
年収500万円のサラリーマン家庭(妻専業主婦、15歳以下の子供1人)
自己負担した医療費が10万円なら、所得税約1万円が還付(税率10%で計算、生命保険料控除、住宅ローン控除などは考慮せず)されるでしょう。
「うちの医療費は10万円以上ないからダメでしょ~」
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医療費の自己負担分は合計10万円以上が原則ですが、必ず10万円以上ではありません。給与所得控除や経費や青色申告控除などを差し引いた後の「総所得金額」が200万円未満の人は総所得金額の5%の金額の自己負担で医療費控除の対象になります。
パートや派遣などで年収300万円の人
給与所得192万円になるので、9万6,000円の自己負担
パートや派遣などで年収200万円の人
給与所得は122万円なので6万1,000円の自己負担
上記が医療費控除の対象となるのです。
家族で医療費の自己負担がとても多くかかった場合
まずは大黒柱で10万円以上かかった自己負担の合計を医療費控除とした方がいいでしょう。
ただ、自己負担合計が10万円に満たない場合は、収入の少ない方(約年収300万円以下)なら医療費控除の対象にできるかも知れません、総所得金額の5%の額を計算してみましょう。
「医療費控除って、こんな費用は大丈夫?」
具体的には、どんな費用が医療費控除として認められるのでしょう?
医療費控除として認められる費用、認められない費用を「〇と×」で示してみました。かかった費用から高額療養費や出産育児一時金、民間保険の給付金など受け取った額は差し引きます。
交通費編
・ 病院に通院した場合の電車代やバス代など → 家計簿等を見せるかコピー添付で証明できれば 〇
・ 病院への通院として使うタクシー代 → 緊急性が認められなければ ×の可能性高い。
・ 自家用車で通院した場合のガソリン代、駐車場代 → 緊急性が認められない場合 ×
・ 出産で産気づき、急いで病院に向かった場合のタクシー代 → タクシーでも緊急性が認められるので 〇
・ 里帰り出産のときにかかった帰省のための交通費 → 残念ながら ×
矯正、美容費編
・ 子供の不正咬合の歯列矯正費用 → 必要な矯正と認められ 〇
・ 美容ための歯列矯正費用 → 美容のための費用は ×
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入院のベッド費用編
・ 病院都合の差額ベッド代 → 病院の都合なら 〇
・ 本人や家族都合の差額ベッド代 → 残念ながら ×
添え料編
・ 付添人を頼んだ時の添え料 → 療養上の世話を受けるためなので 〇
・ 親族に添え料の名目でお金を払った場合 → 残念ながら ×
・ 小さい子供の通院に付添での付添人の交通費 → 通院費に含まれ 〇(通院日がわかるようにしておく)
食費、雑費編
・ 病院で支給される食事代 → 入院代に含まれるなら 〇
・ 入院中に生じた日常品購入代金 → 医療費でないので ×
歯医者編
・ 金やポーセレンを使った治療の費用 → 歯の治療材料として一般的に使用されているので 〇
・ 歯科ローンで治療を受けたとき → 歯科ローン契約日の年に 〇(契約書コピーなど要)
その他の医療費
・ シラミ駆除用品購入費用 → 医師から指示で買った場合、レシートにその旨メモをすれば 〇
・ 風邪を引いたときに買った市販の風邪薬 → レシートに該当分の印をつければ 〇
・ 予防接種代、風邪予防のためのビタミン剤や疲労回復のためのドリンク → 予防のためは ×
ただし、一定の「予防」に対する費用は平成29年1月1日から平成33年12月31日までの間に支払ったのなら医療費控除の特例の対象になります(セルフメデュケーション減税、下記参照)。
平成29年1月からの新税制 「セルフメデュケーション減税(医療費控除の特例)ってナニ?」
セルフメデュケーション減税とは、自分と生計が同じ家族が、「特定成分を含んだ OTC 医薬品(スイッチOTC医薬品)」を購入したとき、支払った合計額が1万2,000千円超のときは、超える金額(上限:8万8,000千円)をその年分の総所得金額等から差し引く新税制です。
特定健診、予防接種、定期健診、がん健診などもセルフメデュケーション税制になる予定です。
ただし、セルフメデュケーション税制と今までの医療費控除は、どちらかを選ばなくてはならないことになるそうです。
(参考:セルフメデュケーション税制)
年末調整は12月分または1月分の給与で所得税が調整されます。平成28年分の確定申告は、来年2月中旬から 3月中旬までです。生命保険料控除や地震保険の証明書を会社に出したら、次は、医療費の領収書をまとめてみてはいかがでしょうか?(執筆者:社会保険労務士 拝野 洋子)