平成29年7月18日に、国の法制審議会が、「配偶者へ贈与された住居を遺産分割の対象外にする」という試案をまとめており、大手メディア各紙でも報道されました。
婚姻期間20年以上などの条件もあり、その詳細をお伝えするとともに、すでにある税制面での優遇策もまとめます。
なお9月22日まで、下記のサイトよりパブリックコメント(意見公募)を受け付けており、この結果によって試案が実現されるかが左右されます。

目次
配偶者の法定相続分はもともと多い
民法で定められた法定相続分は、下記のようにもともと配偶者が多く相続できるように決められています。
今回の試案が実現すれば、さらに配偶者の実質相続分は増えることになります。
1. 配偶者と子がいる場合
配偶者:1/2 子:あわせて1/2
2. 子がおらず、配偶者と実の親などの直系尊属がいる場合
配偶者:2/3 直系尊属:あわせて1/3
3. 子も実の親もおらず、配偶者と実の兄弟姉妹がいる場合
配偶者:3/4 兄弟姉妹:あわせて1/4
なお婚姻期間が長い場合の配偶者法定相続分引き上げ案も、平成28年にはありました。
しかしパブリックコメントで反対が相次ぎ、今回の軌道修正になったものとみられます。

民法改正案の詳細
さて本題に入りますが、例えば配偶者と子1人がいるケースで、住居の評価額が4,000万円、その他の財産額が4,000万円の場合を考えます。
住居を配偶者が相続した場合、法定相続分に基づく遺産分割になると、その他の財産は全て子が相続します。
しかし今回の試案のように住居が遺産分割対象外となった場合、法定相続分に基づく遺産分割になると、その他の財産は2,000万円ずつ配偶者と子で分けることになります。
ただし対象に出来る条件があります。
・ 住居は生前贈与するか遺言により相続
配偶者に対する税制優遇はすでにある
相続税や贈与税など税制面では、配偶者に対する手厚い税制優遇はすでにありました。
贈与税の場合
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、住居の贈与が行われた場合、基礎控除110万円 + 配偶者控除2,000万円分を贈与財産価額から控除できるというものです。
今回の試案で出てきた婚姻期間の条件が同じであり、この配偶者控除と組み合わせて配偶者の居住権を確保しやすくすることで、試案には生前贈与を促す意図があると考えられます。
ただ配偶者控除2,000万円という枠が、お住まいの地域や持っている不動産によっては小さく感じられる方もいらっしゃると思います。
まだ土地評価減の特例として有名な小規模宅地の特例(居住用の宅地については330㎡までについて評価額8割減)は相続税の特例ですので、これは使えません。
相続税の場合

一方で、配偶者の相続した財産の額が1億6,000万円(法定相続分相当額がそれより多ければその金額)までであれば、配偶者の相続税はかからないという制度もあります。
こちらは婚姻期間の制限はありませんし、1億円を超す枠であることから使い勝手のよい税額軽減制度と言えます。
ただし遺言によらない遺産分割になると、相続税の税額軽減は使えても、試案のように住居を遺産分割の対象外になりません。
最後に
現段階では試案ですので、パブリックコメントの結果によっては実現に至らないことも考えられますが、配偶者の相続分優遇については国も様々な形で模索していると見られます。(執筆者:石谷 彰彦)