2018年度が始まってから、食品などの値上げが相次いでおりますが、値下げされているものもあり、それは例えば生命保険の保険料です。
なお生命保険とは一般的に、「人の生命・健康などのリスクに備えるさまざまな保険の総称」になります。
ですから保障の対象になる方が死亡したら、〇〇円の死亡保険金が支払われるという「死亡保険」だけでなく、「医療保険」、「がん保険」、「就業不能保険」なども生命保険の中に含まれます。
しかし今回値下げされたのは、死亡保険の保険料であり、すべての生命保険の保険料ではありません。
日銀が2016年1月にマイナス金利政策の採用を発表してから、生命保険の保険料は全般的に値上げ傾向でしたが、このように死亡保険の保険料が値下げされたのは、次のような理由があるからです。
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目次
死亡保険の保険料は3つの「基礎率」を元に算出される
生命保険会社が契約者から徴収する、死亡保険の保険料を算出する際には、次のような3つの「基礎率」を使います。
(1) 予定死亡率
生命保険会社は日本アクチュアリー会が作製している「標準生命表」を基準にして、性別や年齢別の死亡率を予測しており、その結果は「予定死亡率」になります。
予定死亡率の引き上げは、死亡保険金の支払いの増加につながっていくため、その分だけ保険料を値上げする必要があります。
それに対して予定死亡率の引き下げは、死亡保険金の支払いの減少につながっていくため、その分だけ保険料を値下げできるのです。
(2) 予定利率
生命保険会社は契約者から徴収した保険料の一部を、債券や株式などで運用しております。
こういった運用を通じて得られる収益を予測し、その予測を元に契約者に対して約束した運用利回りを、「予定利率」と言うのです。
生命保険会社がこの予定利率を決める際には、金融庁が定める「標準利率」を指標にしております。
予定利率の引き上げは、運用を通じて得られる収益の増加を意味しているため、その分だけ保険料を値下げできます。
それに対して予定利率の引き下げは、運用を通じて得られる収益の減少を意味しているため、その分だけ保険料を値上げする必要があるのです。
(3) 予定事業費率
生命保険会社は事業を運営、継続していくために必要となる、経費の目安を予測しており、その結果は「予定事業費率」になります。
予定事業費率の引き上げは、事業で使う経費の増加につながっていくため、その分だけ保険料を値上げする必要があります。
それに対して予定事業費率の引き下げは、事業で使う経費の減少につながっていくため、その分だけ保険料を値下げできるのです。
平均寿命の延びによる死亡率の改善により死亡保険は値下げへ
マイナス金利政策の採用後に、生命保険の保険料が全般的に値上げされたのは、
↓
国債の利回りの低下
↓
国債の利回りを元に決めている標準利率の低下
↓
予定利率の引き下げ
という流れがあったからです。
なお現在の標準利率はマイナス金利政策の影響により、史上最低の水準になっております。
それに対して2018年度から、死亡保険の保険料が値下げされたのは、
↓
標準生命表の改定
↓
予定死亡率の引き下げ
という流れがあったからです。
それならば死亡保険の保険料は、貯蓄性が高い「終身保険」と、掛け捨て型の「定期保険」の、いずれについても値下げされそうな気がします。
しかし上記のように現在は標準利率が史上最低の水準のため、生命保険会社は予定利率の影響を受けやすい終身保険は、ほとんど値下げを実施せずに、定期保険を中心に値下げしているようです。
また平均寿命が延びれば、例えば終身タイプの医療保険やがん保険から、給付金を受け取る機会が増えますから、これらの保険料を値上げする必要があります。
ただ値上げを実施すれば、契約者数が減少する可能性があるため、各社で対応が分かれているようです。
平均寿命が延びると「長生きするリスク」が以前より大きくなる
このように死亡保険の値下げの背景には、日本人の平均寿命の延びがあります。
2017年7月に厚生労働省から発表された、2016年の日本人の平均寿命は、男性は前年比で0.23歳延びて80.98歳、女性は前年比で0.15歳延びて87.14歳となり、男女のいずれについても過去最高を更新しました。
平均寿命が延びるのは喜ばしいことですが、死亡する前に蓄えていた老後資金を使い果たしてしまう「長生きするリスク」が、以前より大きくなるのです。
ですから死亡保険の見直しや更新により、今までより保険料が下がった方、また保険料は変わらなかったけれども、予定死亡率が引き下げされた分の配当金を受けたという方は、それを長生きするリスクに備えるために使った方が良いと思います。
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長生きするリスクに備えるなら個人年金保険よりiDeCoを選ぶ
長生きするリスクに備えるための金融商品としては、個人年金保険が思い浮かぶかもしれません。
ただ受け取れる年金が定額の一般的な個人年金保険は、原則として契約する時点の予定利率が、保険料の払込期間が終わるまで適用されます。
ですから将来的に標準利率が引き上げされ、それにより予定利率が引き上げされても、適用される予定利率は変わりません。
もちろん契約している個人年金保険を解約して、予定利率が引き上げされた新たな個人年金保険に加入すれば、適用される予定利率は変わりますが、解約する時に元本割れする可能性があるのです。
また予定利率が高めに設定されている外貨建て個人年金保険は、例えば年金を受け取る際に、契約する時より円高が進んでいると、為替差損が発生して、元本割れする可能性があります。
その一方で個人型の確定拠出年金、いわゆるiDeCoに加入し、その掛金を運用する金融商品として、例えば「定期預金」を選んだ場合、掛金はあまり増えていきませんが、このような元本割れは避けられます。
また将来に金利が上昇した場合には、金利の低い定期預金から高い定期預金に預け替えをすることにより、適用される金利を変えられるため、個人年金保険より適応力があります。
その他に税制面において、個人年金保険よりiDeCoの方が優遇されているので、長生きするリスクに備えるならiDeCoを、第一の選択肢として考えたいところです。(執筆者:木村 公司)