最近は自由な働き方をする方が増え、中には海外に住みながら日本の企業から報酬を得ているフリーランスの方もいます。
しかし、この場合税金は居住国あるいは日本のどちらに納めればいいのでしょうか。
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目次
原則は居住国に納税
海外在住者の場合、所得税法上は日本の非居住者として扱われるケースが多くなります。
この非居住者については、国内源泉所得にのみ課税されます。
非居住者に該当し、得ている収入が国内源泉所得に当たらないのであれば、日本に所得税を納める必要はなく、日本で確定申告をする必要もありません。
そして、居住国の法律にもよりますが、その国の居住者に納税義務が課されていることがほとんどです。
そのため、海外在住の場合、基本的には居住国に納税する必要があります。
では、どのような場合に非居住者にあたり、またどのような所得が国内源泉所得にあたるのでしょうか。
非居住者とは
居住者とは、国内に住所を有しているか、1年以上居所を有する個人をいい、非居住者とはそれ以外の個人をいいます。
この住所は単に住民票の有無だけで判断されるわけではなく、生活の本拠がどこにあるかという観点から判断されます。
海外に生活の本拠があって、1年以上日本を離れている場合には、非居住者にあたることになります。
裏を返せば、海外在住であるというだけでは非居住者にあたるとは限りませんので注意が必要です。
なお、実際の判定は、より厳密です。国籍の状態や家族の滞在国などの状況を考慮に入れた上で検討することになります。詳しくは、以下のURLをご確認下さい。
【参考】
No.2875 居住者と非居住者の区分
https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/2875.htm
別紙 住所の推定
https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/2875-1.htm
国内源泉所得とは
所得税法には国内源泉所得として15個もの類型が定められています。
【参考】
No.2878 国内源泉所得の範囲(平成29年分以降)(国税庁ウェブサイト)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2878.htm
基本的な考え方は、「所得が生じた場所や原因が日本国内にある場合には国内で所得税が源泉徴収される所得(国内源泉所得)」というものです。
そのため、非居住者が日本国内に事業所や資産などを持たず、海外で業務を行い、モノやサービスのやりとりがすべて日本国外で完結するのであれば、原則として国内源泉所得にはあたりません。
海外在住フリーランスの報酬は国内源泉所得にあたるのか
ではここで本稿がテーマとする海外在住フリーランスの報酬について考えてみましょう。例として、ライターやデザイナーがもらう報酬で考えます。
ライターやデザイナーが作成した著作物には著作権が発生します。
そのため、ライターやデザイナーとクライアントの間の契約は、通常、報酬が著作権の譲渡の対価や使用料にあたります。
この場合は、たとえ業務を海外で行っていたとしても、その報酬は国内源泉所得にあたると考えられます。
国内源泉所得の所得税
報酬が国内源泉所得にあたる場合、源泉徴収によって所得税を納めることになります。
報酬を支払う側があらかじめ所得税分を差し引いて支払い、それを納税してくれるので、報酬をもらう側は特に何もする必要はありません。
しかし、非居住者の国内源泉所得の源泉徴収税率は、居住者に対する源泉徴収税率よりも高めに設定されていることがあるので注意が必要です。
ライティング報酬の場合
例えば、ライティング報酬は原稿料にあたると考えられます。
居住者に対しては、報酬が100万円以下の場合の所得税の源泉徴収の税率10.21%です。
報酬が100万円を超える場合は
の所得税源泉徴収されます。
他方、非居住者に対しては、著作権の譲渡を伴うライティング報酬につき、報酬額にかかわらず20.42%の所得税が源泉徴収されます。
租税条約による所得税の減免
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源泉徴収税率が高くなっている国内源泉所得ですが、源泉徴収される所得税は、租税条約によって減免されることがあります。
租税条約とは、外国国家と日本との間で二重課税や脱税を防止することを目的として締結された条約をいいます。
2020年6月1日現在、日本は139の国や地域と租税条約を締結しています。
それぞれの居住国によって条約の内容が異なることがあるので、詳細については居住国と日本の条約内容を確認する必要がありますが、基本的に納税は居住している国で行い、海外で生じた所得に対する源泉所得税は減免されるというものです。
非居住者の所得で国内源泉所得にあたるものがあっても、租税条約に基づいて、日本で生じた所得に対する所得税が減免されることがあります。
例えば、ライターであれば報酬が著作権の譲渡の対価にあたることが一般的ですが、著作権の譲渡の対価については、筆者が居住するオーストラリアのように、日本との租税条約で日本での所得税が免除となることがあります。
もし国内源泉所得として源泉徴収されているという方は、租税条約による所得税の減免の有無を確認してみてください。
居住国の法律を確認しよう
収入が国内源泉所得に当たらない場合には、たとえ日本円で稼いでいたとしても日本に納税する必要はありません。
居住国の法律に従って申告・納税の手続きをとるようにしてください。(執筆者:弁護士 横山 和美 監修:税理士 鈴木まゆ子)