日本は世界に類を見ないほどの高齢化社会です。高齢者の方の中には日常生活で介護が必要になって介護施設に入居する人もたくさんいます。
その際に多くの施設で求められるのが「身元引受人」と呼ばれる方です。
しかし、身元引受人という聞きなれない言葉に戸惑ったり、よくわからない役割を引き受けることに不安を感じる方は多いのではないでしょうか。
今回は、身元引受人の役割と、それを引き受ける際の注意点を紹介していきます。
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目次
身元引受人とは
身元引受人について簡単に解説すると、その役割は大きく分けて2つあります。
1. 意思決定を支援する役割
1つ目は、施設利用者本人に代わって意思決定を支援する役割です。
本来であれば自分がどのように生活したいかなどを決定する役割は、その本人が担うことが原則です。
しかし、疾病の内容によっては自分の意思を表出することが困難であったり、適切な内容の意思決定が困難な方もいます。
意思決定が自分自身で困難な場合に、それに代わって意思決定を行うのは身元引受人の役割です。
施設を利用する際の一連の契約行為や施設入居後のケアプランの同意など、本人が行うことが困難な意思決定については身元引受人と協議することが一般的であるため、親族がその役割を担っているケースが多いようです。
また、近年では親族がいなかったり関係が疎遠であることから「成年後見制度」を活用し、代理人として成年後見人がその役割を担うケースも見られています。
2. 金銭的な相談を受ける役割
2つ目の役割は、施設の利用料金を含めた金銭的な相談を受ける役割です。
施設利用者本人が疾病などさまざまな原因から自身での金銭管理が困難となり、支払い行為ができなくなる場合もあります。
その際に、施設利用者本人に代わって施設利用料をはじめとした必要な諸費用を支払うことも身元引受人の役割です。
3. その他
前述した2点以外にも、施設生活を送る中でのさまざまな困りごとについては利用者本人と身元引受人に相談して決定していくため、施設からの連絡が定期的に来ることになります。
身元引受人となるうえで覚えておきたい注意点
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次に、身元引受人となるうえで覚えておきたい注意点を2つ説明していきます。
注意1. 支払いに不足が生じた場合には代わって支払う必要がある
利用者本人の収入に比較的余裕があり、本人の収入のみで支払いが可能な場合にはあまり問題はありませんが、不足が出る場合については身元引受人がそれを代わって支払う必要が出てきます。
施設の利用料金は、施設の種類によって基本料金には含まれないオプション料金が別に発生する場合もありますので、確認しておくことをおすすめします。
身元引受人に対して、連帯保証人と似た役割を課している施設も多く存在します。利用者本人からの支払いが不足した場合には、基本的に身元引受人が支払うこととなります。
しかし、その支払いの上限額は契約書に記載することとされています。そこに記載された以上の金額の支払いは身元引受人に求めてはならないということが2020年の民法改正によって定められました。
身元引受人となった場合に、自分が支払わなければならない可能性がある金額の上限を契約前に確認すると後々のトラブル防止に役立つことでしょう。
注意2. さまざまな場面で決断を求められることが多い
認知症を発症していたり、疾病等によって自分の意思表示をすることが困難な施設利用者の方は少なくありません。
その際に、身元引受人の方には施設利用者本人に代わって意思表示を求める施設がほとんどです。
特に病気などが見つかった時の延命治療の希望などは、その事態が生じてから本人に意思確認をすることは困難であるため、身元引受人の方に判断してもらう必要があります。
万が一の事態に備えて延命治療等を行うか否かなど、あらかじめ本人に確認しておくことをおすすめします。
また、身元引受人以外の親族が複数いて利用者の生活に対する意向が異なっている場合には、事前に意向を揃えておくことでトラブルの防止にもつながります。
身元引受人の役割を正しく理解してスムーズな施設入居
身元引受人は施設入居する際にはほとんどの施設で求められます。施設に入れるからといって話半分で身元引受人を担うことになり、後々施設とトラブルになる方もいます。
また、身元引受人になることを過剰に恐れるがゆえに身元引受人を選任できずに施設入居の話が進まないということも施設利用者本人にとってはデメリットとなってしまいます。
身元引受人の役割を正しく理解することでスムーズな施設入居につなげられ、ひいては利用者本人とその家族にとって安心した生活を送れることにもなるのです。(執筆者:現役老人ホーム施設長 佐々木 政子)