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お盆に話す実家の相続。「借金は長男が返す」は家族だけでは決められません

シニア 終活
お盆に話す実家の相続。「借金は長男が返す」は家族だけでは決められません
お盆に話す実家の相続。「借金は長男が返す」は家族だけでは決められません

お盆に家族が集まると、実家や親の相続について話す機会もあるでしょう。ただし、「借金は長男が返す」と家族で決めても、債権者の同意がなければ他の相続人への請求を防げません。相続開始から10年、不動産の相続登記は3年という期限もあります。家族間の合意だけでは済まない、遺産分割協議書の注意点を整理します。

遺産分割協議書が必要になる場面

遺産分割協議書は、誰がどの遺産を相続するのかを相続人全員で決め、書面にしたものです。作成は必須ではありませんが、遺産分割に基づいて相続手続きをする場合は、相続税の申告や、預貯金・不動産・自動車の名義変更で提出を求められることがあります。遺言書の内容に従って手続きをする場合は、原則として協議書は要りません。遺言書がない場合でも、相続人全員が法定相続分どおりに相続するなら協議書を要しない手続きがあり、法定相続分と異なる割合や内容で分け、その協議結果に基づいて手続きをするときに協議書が必要になります。

気になるのが預貯金です。相続の連絡をすると、全国銀行協会が示すとおり「相続の連絡と同時に、お亡くなりになられたお客さま(被相続人)の口座での取引(預金の入出金等)は、原則として制限されます」。ただし一切動かせないわけではありません。民法第909条の2により、各共同相続人は遺産分割の前でも、預貯金債権の相続開始時の額の3分の1に自分の相続分を乗じた額を単独で払い戻せます。同一の金融機関ごとの限度額は「民法第九百九条の二に規定する法務省令で定める額は、百五十万円とする。」(平成三十年法務省令第二十九号)と定められています。

相続人と財産の確定。債務は遺産分割の対象外

順路は、相続人の確定、財産の確定、遺産分割協議、書面化の4段階です。後から知らない相続人が現れると協議はやり直しになるため、まず出生から死亡までの戸籍をたどります。両親が離婚・再婚しても、被相続人の子は、交流が薄いことだけを理由に相続権を失いません。

次が財産の確定です。取り違えやすいのが、借金や住宅ローン、未払いの税金といったマイナスの財産の扱いです。裁判所は「遺産分割手続Q&A」で「債務 相続開始と同時に法定相続分の割合に応じて相続人が負担することになり,遺産分割の対象とはなりません。」と明示しています。民法第899条が「各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。」と定めるとおり、債務は死亡と同時に法定相続分で各相続人へ分かれ、そもそも協議する対象ではありません。

負担者を決めること自体はできます。裁判所も「◎ 上記については遺産分割の対象とはなりませんが,相続人全員の合意を条件に,調停で話し合うことができます。」としています。ただし「なお,債務については,相続人間で負担者を決めても,債権者の同意を得られなければ,全相続人が,債務を負担することになります。」とも示しています。「借金は長男が引き受ける」と書いても、債権者が同意しない限り、他の相続人も返済を求められる立場のままです。

協議は相続人全員で行います。未成年の相続人は、親権者などの法定代理人を通じて遺産分割に参加します。親権者も相続人なら利益相反で代理できないため、家庭裁判所へ特別代理人の選任を申し立てます。まとまったら、被相続人の氏名・死亡年月日・本籍、相続財産の内容と取得者、相続人全員の氏名・住所と、成立日・全員の押印を記した書面にまとめます。

相続開始から10年、不動産の相続登記は3年

話し合いが長引くと、選べる分け方が変わります。令和3年の民法改正で新たなルールが導入され、令和5年4月1日に施行されました。相続開始の時から10年を経過した後の遺産分割は、原則として具体的相続分ではなく、法定相続分(または指定相続分)によります(民法第904条の3)。ただし、施行日の令和5年4月1日より前に始まった相続には経過措置があり、相続開始から10年を経過する時と、施行から5年となる令和10年4月1日のいずれか遅い時が基準です。施行日の令和5年4月1日時点で相続開始から5年以上経過していたケースでは、その期限は令和10年3月31日です。

前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。 一 相続開始の時から十年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。 二 相続開始の時から始まる十年の期間の満了前六箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

家庭裁判所で引き続き具体的相続分による分割を求められるのは、この2つの例外にあたるときです。なお、10年の経過後でも、相続人全員が合意すれば具体的相続分による遺産分割は可能です。法定相続分は「決まらないときの目安」ではなく、10年を過ぎれば原則そのものになります。

もう1つの期限が相続登記です。誤解しやすいのが、義務を負う人の範囲です。法務省は「遺産分割をしていない場合には、全ての相続人が法定相続分の割合で不動産を取得(共有)した状態となる」と説明しています。その不動産を相続する気がない人にも、預貯金だけを先に分けて不動産を未分割のまま残した人にも、分割が済むまでは申請義務があります。義務がなくなるのは、遺産分割が調ってその不動産の所有者が自分以外に決まったときです。

相続登記は令和6年4月1日から申請が義務化され(不動産登記法第76条の2・第164条第1項)、法務局は「令和6年4月1日より前に開始した相続についても、その相続登記をしていない場合には、義務化の対象となります。また、相続人が、遺贈により不動産を取得した場合についても同様に、その所有権移転登記の申請が義務化されました。なお、正当な理由がないにもかかわらず、法定の期間内に、これらの申請をしなかった場合には、10万円以下の過料が科されることがあります。」と案内しています。

法務省「相続登記の申請義務化について」は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務付けられました」としています。令和6年4月1日より前に不動産を相続で取得したと知っていた場合は、令和9年3月31日までが申請期限です。さらに、いったん法定相続分で登記したあとに遺産分割をして、法定相続分を超えて不動産を取得した人には、「遺産分割が成立した日から3年以内にその内容を踏まえた所有権の移転の登記を申請すること」が義務付けられています。

3年以内に協議がまとまりそうにないときは、相続人申告登記という手当てがあります。自らが登記簿上の所有者の相続人であることなどを期限内に登記官へ申し出れば、申し出た人については義務を履行したものとみなされます。ただし権利関係を公示するものではないため、売却や担保設定の際には相続登記が別途必要です。

必要書類と、財産ごとの書き方

遺産分割協議による相続登記まで進めるには、一般に、出生から死亡までの戸籍(除籍・改製原戸籍・現戸籍)、相続人全員の戸籍謄本(抄本)が要ります。協議書には相続人全員が実印を押し、遺産分割協議を行った相続人全員の印鑑証明書を添付します(3か月以内に作成されたものでなくても差し支えありません)。つまずきやすいのが被相続人の住所を示す書類で、法務局の資料では「住民票の除票 又は 戸籍の附票」とされています。両方そろえる必要はなく、要件を満たすどちらか一方で足ります。

お盆に話す実家の相続。「借金は長男が返す」は家族だけでは決められません

(法務局「相続による所有権の登記の申請に必要な書類とその入手先等」1 遺産分割協議の場合)

この書類が要るのは「「被相続人の登記上の住所」が「戸籍謄本」等に記載された本籍と異なる場合」です。法務省民事局の「登記申請手続のご案内」(令和8年4月版)は、被相続人と登記上の所有者が同一人であることを証明するため、住民票の写し、住民票の除票の写し、戸籍の附票の写しのいずれか(本籍または戸籍の表示と、登記上の住所と同じ住所が記載されているもの)を添付するとしています。

財産は、預金なら口座を特定できる情報、不動産なら登記事項証明書のとおりの表示、と対象ごとに正確に記します。

つづり目に押すのは割印ではなく契印

複数ページになったときの押印は、取り違えやすい点です。書類のつづり目に押すのは「割印」ではなく「契印」です。法務局が案内しているのは登記申請書についてで、「申請書が複数枚にわたる場合は、申請人又はその代理人は、各用紙のつづり目に必ず契印をしてください(申請人が2人以上いる場合は、そのうちの1人が契印することで差し支えありません。)。」と示しています。登記申請書と収入印紙貼付用の台紙をつづる場合も「登記申請書と白紙(台紙)との間に契印をしてください」(法務省民事局「登記申請手続のご案内」令和8年4月版)とされ、やはり契印です。なお、法務局の資料で「割印」が出てくるのは「収入印紙には、割印や消印などを行わないでください。」のような別の用途です。

相続人全員の合意がなければ協議書自体が無効になります。財産の記載漏れがあると、その財産は協議されていないことになり、もう一度協議が必要になることもあるので、漏れなく書き入れます。

家族が集まるうちに、確認から始める

押さえどころは3つです。債務は遺産分割の対象ではなく、負担者を決めても債権者の同意がなければ、各相続人が法定相続分に応じて負う立場のままであること。相続開始から10年を過ぎると、分け方の物差しは原則として法定相続分(遺言の指定があれば指定相続分)へ移り、民法第904条の3ただし書の2つの例外、施行日前の相続の経過措置、相続人全員の合意にあたるときだけ具体的相続分で分けられること。そして不動産が未分割のうちは、相続登記の3年の義務が相続人全員にかかることです。家族が顔をそろえるうちに、誰が何を持っているのかの確認から始めておけば、いざというときに慌てずに済みます。

《編集部》
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執筆者: 編集部 編集部

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