
「富裕層」と聞くと、年収数千万円の暮らしを思い浮かべる方も多いでしょう。ところが、富裕層を測る代表的な物差しの一つは「年収」ではなく、保有する金融資産から負債を差し引いた「純金融資産」です。野村総合研究所(NRI)は、この純金融資産の保有額によって世帯を5つの階層に分類しています。高収入でも住宅ローンなどの負債が大きければ、必ずしも富裕層に入るとは限りません。では、いくら持っていれば富裕層なのか。最新の世帯数とともに家計目線で整理します。
富裕層の定義は「純金融資産」で決まる
「富裕層」という言葉に、法律で決まった一つの定義があるわけではありません。広く使われているのが、野村総合研究所(NRI)が用いる「純金融資産保有額」による区分です。純金融資産とは、預貯金や株式、債券、投資信託、一時払い生命保険や年金保険などの金融資産の合計から、住宅ローンなどの負債を差し引いた金額を指します。
ここで大切なのは、自宅などの不動産は原則として含まないという点です。たとえば金融資産が1億円あっても、負債が2,000万円あれば、純金融資産は8,000万円として扱われます。持ち家の評価額の大きさで富裕層かどうかが決まるわけではありません。
NRIはこの純金融資産の大きさをもとに、日本の世帯を5つの階層に分けて世帯数と資産規模を推計しています。まずはその物差しを見ていきます。
純金融資産で分ける5つの階層(2023年推計)
NRIが2023年時点で推計した5つの階層は、次のとおりです。

※野村総合研究所「日本の富裕層・超富裕層は合計約165万世帯」(2025年2月13日公表・2023年の推計)より。世帯数は同社の推計値です。
このうち富裕層と超富裕層を合わせると165.3万世帯で、前回の2021年推計(148.5万世帯)から11.3%増えています。一方で、世帯数として最も多いのは3,000万円未満のマス層で、全体の大半を占めます。富裕層・超富裕層は世帯全体から見ればごく一部にとどまり、そのぶん「富裕層」という言葉の手触りと実際の割合には差があります。
NRIは近年の増加について、株式や投資信託といったリスク性資産の値上がりや、相続による資産移転などが背景にあると分析しています。
「年収いくらで富裕層」に決まった答えがない
富裕層をめぐってよく聞かれるのが、「年収がいくらあれば富裕層か」という問いです。ここには決まった基準がありません。理由は、年収と資産がそもそも別の物差しだからです。
年収は1年間に入ってくるお金の流れ(フロー)を表すのに対し、純金融資産は今の時点で手元に積み上がった残高(ストック)を表します。年収が高くても支出が大きければ資産は貯まりにくく、逆に年収が並でも長く堅実に蓄えれば資産は積み上がっていきます。つまり、年収の高さがそのまま富裕層を意味するわけではありません。
高い年収を得やすい職業に、結果として富裕層が多い傾向はあるとされます。ただしこれはあくまで一般的な傾向で、同じ職業でも資産の状況は人それぞれです。年収は資産形成の入口の一つにすぎない、という距離感でとらえておくのがよいでしょう。
準富裕層と富裕層は何が違うのか
富裕層の一歩手前にあたるのが、純金融資産5,000万円以上1億円未満の準富裕層です。2023年の推計では403.9万世帯とされ、近年は富裕層へ移っていく世帯も含めて増えています。会社員として働きながら、気づけばこの層に届いていたというケースも珍しくありません。
富裕層と準富裕層を分けているのは、突き詰めれば純金融資産の額の違いです。準富裕層が資産を増やして1億円の壁を越えれば富裕層に、富裕層が5億円を越えれば超富裕層に移ります。NRIも、準富裕層の一部が富裕層へ、富裕層の一部が超富裕層へと移ったことが全体の増加につながっていると説明しています。階層は固定された身分ではなく、資産の増減で行き来するものだと考えるとわかりやすいでしょう。
世界や地域から見る富裕層
「日本の富裕層は世界的に見て多いのか」も気になるところです。ただし国際比較では、NRIとは異なる物差しが使われる点に注意が必要です。Capgemini Research Instituteの「World Wealth Report 2026」では、主たる住居などを除く投資可能資産が100万ドル以上の個人を富裕層(HNWI)として扱っています。純金融資産で世帯を区切るNRIの定義とは範囲が違うため、単純に人数を比べることはできません。同レポートでは、2025年末時点の世界のHNWI人口は2,530万人、米国は870万人とされ、日本は2025年に43.6万人増加した市場として取り上げられています。
国内の地域差もあります。総務省統計局の全国家計構造調査では、家計資産を「住宅・宅地資産」と「純金融資産(貯蓄-負債)」を合わせたものとして扱います。家計資産・負債に関する結果として確認できる直近の公表値は2019年調査で、総世帯の家計資産総額は東京都が4,701.0万円と最も多く、次いで神奈川県、愛知県、埼玉県、奈良県などが多い結果でした。一方で、この家計資産はNRIの純金融資産とは範囲が違います。地域差を見るときも、金融資産だけなのか、不動産を含む家計資産なのかを分けて考える必要があります。
自分がどの階層かを知ることから
富裕層かどうかは、年収の高さでも暮らしぶりの派手さでもなく、負債を引いた後に残る純金融資産で決まります。まずは預貯金や有価証券を足し、住宅ローンなどの負債を引いて、自分の世帯が5つの階層のどこに立っているかを把握することが出発点です。数字にしてみると、遠い世界の話に見えた「富裕層」との距離が具体的につかめてきます。制度や税金でわからないことがあれば、金融機関や税理士などの専門家に相談しながら、無理のない範囲で家計を整えていきましょう。


