
お盆で家族が集まると、親の家や預貯金など、普段は避けている「相続」の話が出ることがあります。ところが、いざ調べてみると弁護士、税理士、司法書士、行政書士と相談先はさまざま。「結局、誰に相談すればいい?」と迷わないために、相談内容ごとの窓口と手続きの期限を整理します。
「相続のこと、一度調べておいて」父から突然言われたら
お盆で家族が集まり、親から「そろそろ相続のことも考えておかないとな」と言われたAさん。ところが、いざ調べようとして最初に困ったのが「誰に相談するのか」だった――というケースを考えてみましょう。
「相続なら弁護士?」
「税理士に相談するもの?」
「実家の名義変更なら司法書士?」
専門家の名前は知っていても、それぞれ何を頼めるのかまでは分かりにくいものです。
実際、相続は相談内容によって適した窓口が違います。相続人どうしのもめごと、税金、不動産の登記、書類の作成では、それぞれ専門家の役割が異なります。
では、Aさんは何を、誰に相談すればよいのでしょうか。
弁護士?税理士?司法書士?相談内容で行き先は変わる
相続の相談先を選ぶときは、「相続について相談したい」と大きく考えるのではなく、「何に困っているのか」を切り分けると分かりやすくなります。たとえば、兄弟で遺産の分け方について意見が対立しているなら弁護士です。相続税がいくらになるのか、申告が必要なのかを知りたいなら税理士。不動産の名義を相続人へ変更する相続登記なら司法書士が専門になります。
戸籍などの書類収集や遺産分割協議書などの書類作成、自動車の名義変更などは行政書士に依頼できる場合があります。大まかに整理すると、次のようになります。

重要なのは、「一番偉そうな専門家を選ぶ」のではなく、自分が抱えている問題に合った専門家を選ぶことです。Aさんの場合なら、まだ相続が発生しておらず、兄弟間のトラブルも起きていません。
まずは父親がどんな財産を持っているのか、遺言書はあるのか、不動産は誰の名義なのかなどを家族で確認するところから始められます。一方、すでに相続が発生していて「借金があるかもしれない」という場合は事情が違います。相続放棄には原則3か月という期限があるため、相談先を比較しているうちに時間を使ってしまうのは避けたいところです。
相続では、「誰に相談するか」と同じくらい「いつまでに相談するか」が重要なのです。
手続きには締め切りがある。動く順番を押さえる
相続では、期限のある手続きが時間差でやってきます。順番に押さえておけば、慌てずに進められます。
亡くなってすぐに必要なのが、健康保険や年金の手続きです。国民健康保険・後期高齢者医療・介護保険の資格喪失は、亡くなった日から14日以内に所定の窓口へ届け出ます。年金受給権者の死亡届が必要な場合は、国民年金が14日以内、厚生年金が10日以内と、こちらのほうが早めです。なお、マイナンバーが年金機構に収録されていれば、死亡届そのものは原則として省略できます。
次に区切りになるのが3か月です。この間に相続放棄をするかどうかを判断します。さらに、故人の所得税を精算する準確定申告は、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内、相続税の申告と納付は、死亡を知った日の翌日から10か月以内が期限です。最後に、不動産があれば相続登記が待っています。たとえば厚生年金を受け取っていた親が亡くなった場合、年金受給権者の死亡届は10日以内と早いので、まずそこから動くと後が楽になります。
遺言書があるかどうかで、進め方が変わる
手続きに入る前に、遺言書が残されていないかを確認します。遺言があるかないかで、その後の進め方が大きく変わるからです。
自宅などで自筆の遺言書(自筆証書遺言)が見つかり、封がされている場合は、その場で開封してはいけません。開封せずに家庭裁判所へ持ち込み、「検認」という手続きを受けます。検認は、遺言書の形や内容を家庭裁判所が確認して記録に残すものです。これに対して、公証役場で作る公正証書遺言は検認が不要です。法務局が自筆の遺言を預かる自筆証書遺言書保管制度を使って預けてあった場合も、検認はいりません。
遺言があり、その内容どおりに分けるだけなら、相続人全員で話し合う遺産分割協議は不要です。逆に遺言がなければ、相続人全員で分け方を決める協議が必要になります。まず遺言の有無を確かめることが、段取りの出発点です。
借金があるかもしれないなら、相続放棄も選べる
相続では、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金などマイナスの財産も引き継ぎます。もし借金のほうが多いようなら、相続放棄という選択肢があります。
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所へ申し立てます。この3か月は「熟慮期間」と呼ばれ、承認するか放棄するかをじっくり考えるための期間です。借金がどれくらいあるか分からないときは、プラスの財産の範囲でマイナスの財産を引き継ぐ限定承認という方法もあります。
何もしないまま3か月が過ぎると、プラスもマイナスもすべて引き継ぐ単純承認をしたものとみなされます。財産の調査が3か月で終わりそうにないときは、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てることもできます。判断に迷うなら、早めに弁護士や司法書士へ相談しておくと安心です。
不動産があるなら、相続登記は3年以内
相続財産に不動産があるなら、名義を故人から相続人へ変える相続登記が必要です。この相続登記は2024年4月1日から義務になりました。
不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請しなければならず、正当な理由がないのに怠ると、10万円以下の過料が科されることがあります。2024年4月より前に相続して未登記のままの不動産も対象で、こちらは2027年3月31日までに申請します。ただし、不動産を相続で取得したことを知った日が2024年4月1日以降の場合は、その日から3年以内です。放置していた実家の名義変更も、いまは期限のある手続きになっているという点は押さえておきたいところです。
すぐに分け方が決まらないときは、相続人申告登記を使えば、申出をした相続人については、いったん義務を果たしたものとみなされます。登記の申請は手続きが細かいため、司法書士の得意分野です。申請先は、不動産の所在地を管轄する法務局になります。
迷ったら、まず相談先を一つ決める
相続は、内容ごとに窓口を選び、期限の早い手続きから順に片づけていけば、思ったより落ち着いて進められます。もめごとは弁護士、税は税理士、不動産の登記は司法書士、書類は行政書士が基本の役割分担です。何から相談すべきか迷う段階なら、法テラスや市区町村の無料相談で全体像をつかむところから始めましょう。お盆で家族が集まったなら、誰が何を相談するか決めるだけでも一歩前へ進みます。


