
元の配偶者が再婚したと聞いて、今月から振込を止めようかと迷う人がいます。ですが再婚の届出だけでは、養育費の取り決めは動きません。実の親が子を扶養する義務は、血のつながりを根拠に残り続けるからです。分かれ目になるのは再婚そのものではなく、再婚相手と子が養子縁組をしたかどうかです。
再婚だけでは動かない、実の親の扶養義務
再婚という手続きが作る中心は、届出をした2人の間の婚姻関係です。子と再婚相手は姻族にはなりますが、それだけで法律上の親子関係や当然の扶養義務が生まれるわけではありません。
親が子を扶養する義務は、血のつながりから生まれます。民法は、直系血族及び兄弟姉妹は互いに扶養をする義務があると定めています(民法877条1項)。実の親と子は直系血族ですから、離婚しても再婚しても、この関係そのものは動きません。2026年4月1日に施行された改正民法は、義務の中身をさらに踏み込んで書きました。父母は、その子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない、というのが新しい817条の12第1項です。余裕がある分だけ払えばよい、という性質のものではないことが条文に書かれました。
親権を持っているかどうかも関係ありません。離婚のときに父母の双方または一方を親権者と定めるのは民法819条1項の話で、扶養義務の根拠である877条とは別の条文です。同じ改正で離婚後も父母の双方を親権者と定める道が開かれましたが、親権者でないほうの親の義務が軽くなるわけではありません。
養子縁組で入れ替わる、子を扶養する順序
風向きが変わるのは、再婚相手と子が養子縁組をしたときです。養子は、縁組の日から養親の嫡出子の身分を取得します(民法809条)。書類の上で親子になるということで、ここではじめて再婚相手に子への扶養義務が生まれます。
手続きの入口は、思われているほど狭くありません。未成年者を養子にするには家庭裁判所の許可が要るのが原則ですが、自己または配偶者の直系卑属を養子とする場合はこの限りでないとされています(民法798条ただし書)。法務省も、養子が配偶者の子、いわゆる連れ子であれば家庭裁判所の許可は不要だと案内しています。子が15歳未満なら、法定代理人が本人に代わって縁組を承諾します(民法797条1項)。離婚後に父母の双方が親権者になっている場合は、この承諾を父母が共同でする必要があると法務省は説明しています。
縁組が成立すると、親権の並びも変わります。改正後の民法818条3項は、子が養子であるときは養親と、その養親の配偶者である父母を親権者とすると定めました。離婚後に父母の双方を親権者としていた場合について、法務省の解説資料は、養親とその配偶者である実親が共同親権者となり、他方の実親は親権者ではなくなると説明しています。
ここで押さえたいのが、離れて暮らす実の親の義務が消えるわけではない、という点です。普通養子縁組では実の親子関係がそのまま続きます。変わるのは、扶養する義務を負う人が増えたあとの順序のほうです。義務を負う人が数人いる場合の順序は当事者の協議で決め、協議が調わないときは家庭裁判所が定めます(民法878条)。減額や免除が語られるのは、この順序が動くからです。

特別養子縁組だけは別格で、養子と実方の父母及びその血族との親族関係が終了します(民法817条の9)。ただし再婚相手が配偶者の子を特別養子にする場合、その配偶者である実の親との関係は続きます(同条ただし書)。子の年齢に上限があり、家庭裁判所の審判で成立させる縁組です。反対に、縁組をほどく離縁をすれば養親側との親族関係は終了し(民法729条)、実の親の立場が戻ります。
支払う側の再婚で増えるもの、増えないもの
支払う側が再婚した場合も、見るところは同じです。婚姻の届出そのものではなく、法律上の扶養義務がいくつ増えたかを見ます。夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならないと定められており(民法752条)、再婚相手はこの扶助の相手になります。再婚相手との間に子が生まれれば直系血族として、相手の連れ子と養子縁組をすれば養親として、それぞれ877条1項の義務が生まれます。
一方で、民法が扶養や扶助の義務を直接結びつけているのは、直系血族と兄弟姉妹、そして婚姻した夫婦という法律上の身分です。届出をしていない相手は、この文言には入りません。ただし家庭裁判所は、特別の事情があるときには三親等内の親族の間でも扶養の義務を負わせることができるとされており(民法877条2項)、縁組をしていない配偶者の子がここに入る余地は残ります。支出が増えた実感と、法律上の義務が増えたかどうかは、必ずしも一致しないということです。
協議、調停、審判と進む減額の道すじ
減額を決めるのは当事者どうしの合意か、家庭裁判所です。取り決めのあと事情に変更を生じたときは、家庭裁判所がその協議や審判の変更または取消しをすることができるとされています(民法880条)。子の監護に要する費用の分担についても、家庭裁判所は必要があると認めるときに定めを変更できます(民法766条3項)。
順路は決まっています。まず相手との協議から入り、まとまった内容は書面に残します。話がつかないときは家庭裁判所へ養育費請求調停を申し立てます。申立先は相手方の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所です。裁判所は、話合いがまとまらず調停が不成立になった場合には審判手続が開始され、裁判官が一切の事情を考慮して判断することになると案内しています。
支払いを止めた先に待つ差押え
相手の再婚を知った日から自分の判断で振込を止める、というのがいちばん高くつく動き方です。
取り決めが調停調書や、直ちに強制執行に服する旨の陳述が入った公正証書になっていれば、それは強制執行の根拠となる債務名義です(民事執行法22条5号・7号)。裁判所も、調停調書や公正証書などで取り決めた養育費が支払われない場合に、給料や銀行預金等を差し押さえられると案内しています。しかも扶養義務にもとづく確定期限の定めのある定期金は、一部に不履行があれば、まだ期限の来ていない将来の分についても、給料などの継続的な給付を対象に債権執行を開始できます(民事執行法151条の2)。給料の差押えが禁じられる範囲も、通常の4分の3から2分の1に狭まります(同法152条3項)。
2026年4月1日からは、入口がもう1つ増えました。子の監護の費用が一般の先取特権の対象に加わったためです(民法306条3号)。債権を目的とする担保権の実行は、担保権の存在を証する文書が提出されたときに開始できるとされています(民事執行法193条1項)。先取特権が及ぶのは、月額8万円に子の数を乗じた額までです(民法308条の2、民法第三百八条の二の規定による子の監護費用の先取特権に係る額の算定等に関する省令)。対象になるのは、2026年4月1日以降に発生した養育費に限られます。父母の間の合意書面など、担保権を証する文書があれば、公正証書にしていなくても差押えを申し立てる道ができたことになります。
払いすぎた分を取り戻せるかも見ておきます。すでに縁組が済んでいたと知らずに払い続けていた場合、法律上の原因なく利益を受けた人はその返還義務を負います(民法703条)。ただし条文は、返す範囲をその利益の存する限度と限っています。子の生活費として使われたあとで全額が戻るとは、考えないほうが安全です。
分かれ目は再婚ではなく、縁組の届出
養育費の取り決めについて、再婚の知らせを受け取った日に変わることは、実は何もありません。動くのは、再婚相手と子が養子縁組をしたときです。順序が変わったと感じたら、まず相手と話し、まとまらなければ家庭裁判所へ申し立ててください。自分の判断で振込を止めるのだけは避けましょう。判断に迷うときは、弁護士などの専門家へ相談してください。


