
秋の彼岸の墓参りで、新しいお墓に刻む言葉を家族で話し合った人もいるでしょう。故人が好きだった歌の一節を刻みたいと考える人もいますが、文化庁は歌詞や詩を著作物の例に挙げています。著作権の保護期間は原則として作者の死後70年までで、刻む前に確かめたいのは、作品の権利と、霊園の規則や宗派の考え方です。
夫の好きだった歌を墓石に刻みたいと考えた60代の女性
「夫がよく口ずさんでいたあの歌の一節を、お墓に刻んであげたい」。夫を亡くした60代の女性は、新しく建てる墓石に、夫の好きだった歌の歌詞を入れようと考えていました。
ところが墓石の打ち合わせで、石材店から「歌詞は著作物なので、刻んでよいかを先に確かめてください」と言われます。好きな言葉を刻むだけなのに、誰に何を確かめればよいのか。霊園の規則も読んだことがなく、女性は手が止まってしまいました。
歌詞や詩の保護期間と、権利者の許諾
文化庁の著作権テキストは、言語の著作物の例に詩歌を、音楽の著作物の例に楽曲を伴う歌詞を挙げています。他人の著作物を使いたいときは、著作物に当たるか、保護期間が満了しているか、権利者が分かっているかなどを順に確かめるよう、文化庁は案内しています。
保護期間は原則として作者の死後70年までで、亡くなった年の翌年の1月1日から数えます。2018年12月30日施行の法改正で死後50年から70年に延び、原則として1968年以降に亡くなった作者の作品が延長の対象になりました。すでに保護期間が切れていた作品が、さかのぼって延長されることはありません(文化庁)。

許諾を得るには、権利者と連絡先を探して特定する必要があり、文化庁も権利者を探すための検索の仕組みを用意しています。権利は作者の遺族や第三者が持っていることもあり、著作権等管理事業者が管理している場合は、そこが利用申請の窓口です。権利者やその所在が分からない場合には「著作権者不明等の場合の裁定制度」、著作物の利用可否に関する権利者の意思が確認できない場合には、2026年4月から運用されている「未管理著作物裁定制度」を利用できる場合もあります。墓石に刻む使い方で許諾が要るかは自分で決めつけず、権利者側や相談窓口に確かめるのが確実です。
霊園の規則と、お寺の墓地なら宗派の考え方
墓石そのものについて、霊園が規則を設けていることもあります。都立霊園では、墓碑などの工事をする前に届け出が必要で、墓碑の高さや大きさの制限も施設の種類ごとに定められています(東京都霊園条例施行規則)。刻む文字に定めがあるかどうかも含めて、使う霊園や墓地の管理事務所に確かめておくと安心です。
お寺の墓地に建てる場合は、宗派の考え方も確かめどころです。浄土真宗本願寺派は、お墓にこうしなければならないという明確な決まりはないとしたうえで、建てようと思ったらまずお寺に相談することを勧めています。
作者と権利者、霊園の規則を確かめてから刻む
好きだった歌の一節を墓石に刻むことは、故人を身近に感じられる形の一つです。まず作者と亡くなった年を調べ、保護期間内なら、刻んでよいかを権利者側に確かめます。霊園の規則や宗派の考え方も合わせて確かめ、文字の配置は石材店と相談しながら、故人を偲ぶ言葉を選んでいきましょう。


