申込みを受けてから、内容の検討、審査を経て最終的に融資可否を決定し、融資するプロセス。
これを「取上げる」と、こだわって呼んでいます。
断わることは「謝絶する」といいます。
融資審査手法は、銀行によってそれぞれ違います。
また社内限りの極秘事項であり、当然ながら世間一般に公表されていません。
しかしながら、金融機関として押さえておくべき基本的部分は共通しています。
「こんなひとなら、融資したカネはキチンと返済してもらえるはず。」
銀行が融資しても良いと考える基準、それが融資の「取上げ基準」です。

目次
銀行は、融資取上げの基準を満たさないひとには融資しません
今回は融資取上の基準について、以下のとおり説明していきます。
個人の事業資金借入、あるいはアパートローンなど不動産投資向け融資を申込むイメージで読み進めてください。
今回も前回同様、私の銀行で新人教育に使用するマニュアルを参考にしています。
教育資料ではありますが、融資に対する銀行の基本方針といった核心に関連した内容ですので、今後のご参考にしてください。
今後の流れ
第2回: 資金計画や資金使途について ~何に必要なのか? どんな計画なのか?
第3回: 返済財源・返済能力について ~どうやって? なにで返済していくのか? 何年で返済するつもりなのか? 最後まで返済することはできるのか?
第4回: 融資に対する押さえ ~担保や保証人はどうするか?
第1回:事業の内容 ~申込者の自己紹介から事業内容まで
経歴 ~申込者本人の経歴と事業の経歴
融資申込みをすると、銀行員からいろいろ質問されます。
住所、氏名、職業、年収など申込書へ普通に記載する以外にも、それこそ根ほり葉ほり聞かれます。

申込者本人に関する質問
・家族構成
・家族の住所・氏名・勤務先(自分の両親、妻の実家も同じ)
・取引している金融機関
・預金や証券等資産の残高
・所有している全不動産の内容
事業に関する質問
・親から引き継いだ事業なら、創業から自分までの歴史。
・仕入先や販売先、得意先の名前、下請けなら親会社の情報。
※関連記事:銀行融資の高い敷居を攻略【第1回】 銀行員が教える「融資していい相手」3つの条件
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警察の事情聴取のようだ、と不快に感じられると必要な情報も聞き出しにくくなるので、ここが銀行員の経験・能力を問われる部分です。
ベテランにもなると、会話からうまく誘導して必要な情報を聞き出すものです。
しかし不慣れな若手はマニュアル通りのストレートな質問をするので、答えている申込者は、まるで銀行員の前で自己紹介をさせられているような気持ちになります。
そんなことまで?と疑問に感じるほど、非常に細かく聞かれますが、これには大きな理由があります。
信用調(しんようしらべ)~なぜこんなに細かく聞くのか?
銀行での聞き取りがまるで自己紹介と上記しました。
聞き取りが自己紹介なら、履歴書もあります。
それが「信用調」(しんようしらべ)です。

銀行によって名前は違いますが、要は取引先の履歴書です。
上記の質問内容は全て網羅されており、信用調を見ればその取引先のことが全てわかるようになっています。
銀行員は転勤が常で、取引先との付き合いは長くても3年程度です。
信用調は、銀行員にとってすぐに使える引継書でもあります。
信用調の利用方法
信用調のおもな用途は融資稟議書の付属資料です。
融資取上げについて、稟議書で「事業の内容、経歴、資産背景等は信用調に記載」と記入し、信用調を添付します。
審査する人間は、信用調から必要な情報を読み取ります。
信用調には、融資取上基準に関する内容ほぼ全て記載されています。
そして、信用調にはもうひとつの利用方法があります。
それは「追跡」です。

融資が返済できなくなり音信不通になる、あるいは失踪する。
こうしたケースで銀行は信用調の情報を使って取引先を追跡します。
信用調べには追跡に必要な情報もしっかり記録されており、銀行はこれまでの経験から行き先を推理するのです。
この推理は結構高い確率で当たります。
いわゆる取り立ては本人自宅への訪問が基本です。
ですから、取り立てから逃げるひとは自宅に戻りません。
そこで次の行き先を、優先順位で下記のように推測します。
子供:会社勤め・学生などの子供のアパートにまで、取り立ては訪問できない。
出身地:仲の良い親類など、理由は実家と同じ。
以前は立ち寄りそうな先に本籍地も含まれていました。
個人情報保護法施行後、本籍地の情報はセンシティブ情報として銀行が知ることはできなくなりました。
現在本籍地には(過去の会話などで覚えていたとしても)連絡、訪問することはありません。
銀行は法律や社会常識に則って無理な取り立て行為はしません。
それでも必要に応じ、上記のような追跡をすることがあります。
金融業として、貸したカネは返してもらわなければならないからです。
私も妻の実家前や、お子さんのアパート前で取引先を待った経験があります。
保証人でなければ、訪問や連絡はできないので、近くで待つしかないのです。(執筆者:加藤 隆二)