高齢化率とは、総人口に占める65歳以上の人口割合のことを言いますが、2018年10月1日現在の日本の高齢化率は28.1%(総務省の調査)であり、世界で最も高い数値です。

この現状は日本が長寿社会であることを表しています。これに伴って、認知症の罹患リスクも増大します。

実際に厚生労働省の調査では、65歳以上の高齢者のうちに占める認知症患者数が5年後の2025年には約730万人に達し、5人に1人の割合になると推計されています。

認知症になった場合には、理解力や判断能力の低下により、お金の管理や不動産の処分などができなくなります

また、財産管理だけの問題に留まらず、オレオレ詐欺のような特殊詐欺の被害に遭うリスクもより高まり、親や夫の大切な財産が一瞬にして失われる事態も想定されます。

認知症の親や配偶者の財産管理

認知症になると銀行口座が凍結される

本人名義の口座が凍結されると、それ以降の引き出しや解約はできなくなります。

口座凍結のタイミングは、たとえば父親が認知症と診断された時ではありません。銀行がその事実を知った時です。

具体的には、本人やその家族などが銀行にその旨を申し出た場合などです。

単に認知症だというだけで凍結されるわけではなく、本人の名前や生年月日を言えない、署名ができない等の認知症レベルの重さによって判断されるようです。

ただし、すべての取引が凍結される訳ではありません

凍結されない取引

凍結されない取引は、一般的には

・ 年金振込
・ 介護施設利用料の口座振替

などですが、この場合には本人や窓口で手続きをした人の関係および身分を証明する書類等の提出を求められます。

では、「認知症になったことを告知せずに本人の口座からお金を引き出した場合」には罰せられるのでしょうか。

たとえば、認知症の夫の入院費や介護施設の施設利用料などを本人の口座から引き出し支払った場合などは罪には問われません

ただし、自分の生活費や遊興費などに使うと窃盗罪や横領罪などに問われる場合もあります。

ここで1つ問題があります。

たとえば、認知症の夫の口座で夫婦の家計を賄っている場合、妻は自分のための生活費も夫の口座から引き出して使っているはずです。

諸外国にあるような夫婦で共有できる口座が日本にはないため、多くの場合にはこのような不都合が生じます。

この制度が日本にあれば夫の口座を凍結される心配がありません。これは本当に残念です。

このような場合には、認知症の事実は銀行に伝えず、また後で述べる制度も利用しないという選択もできます

ただし、妻や子に残せる夫名義の金融資産や不動産があって、相続人が複数いる場合などには、夫を保護・サポートする態勢や相続トラブル対策も必要となることでしょう。

「成年後見制度」と「家族信託」の主な特徴

それらの対策として挙げられるのが「成年後見制度」や「家族信託」などの制度です。

制度の利用実態

「成年後見制度」の利用者は、2019年に約22万人であり10年前と比べ約60%増加していますが、ここ5年間は微増の水準に止まっています。

利用率はこの制度が必要と推測される総数の5%にも満たない状況です。

「家族信託」は成年後見制度と比べて利用者数が少ないものの、2007年9月の改正信託法の施行により個人間の信託が可能となったことで注目されつつあります。

「成年後見制度」

成年後見制度

「成年後見制度」とは、認知症や知的障害などで判断能力の低下した人に対して「財産管理、法律行為、身上監護(しんじょうかんご)等」の法的な保護などの生活支援を行う制度のことです。

身上監護とは

身上監護(しんじょうかんご)とは、介護施設の入退所、病院の入退院、介護保険等の各種手続きなどを行うことです。

具体的には、

・ 預貯金や有価証券等の管理・解約、土地や建物の処分(事前に裁判所の許可が必要)

・ 悪徳業者とリフォーム契約を本人が結んだ場合などの契約取消し

・ 遺産分割などの相続手続き

等の行為を本人に代わって行うことです。

ただし、身の回りの世話や本人の介護をすることはこれらの制度には含まれません

「法定後見制度」と「任意後見制度」

また、成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」があります。

「法定成年後見制度」は法律(民法)で定めた制度で、障害の程度に応じて「補助(ほじょ)」「保佐(ほさ)」「後見」があります。

いずれの場合も本人が認知症になった後に行うもので、被後見人(支援を受ける人)の家族などが家庭裁判所に後見人(支援する人)の選任と後見開始を申立てます。

家庭裁判所は書類の審査、申立て人の面接、後見人、後見監督人などの選任と後見開始の認可を出します。

ここで問題なのは、後見人の選任です。

後見人には

親族がなる「親族後見人」と、司法書士、弁護士、社会福祉士などの専門家がなる「専門職後見人」

があります。

後見人は、被後見人のことをよく知る「親族後見人」の選任が理想です。しかし、最近は「専門職後見人」が約7割(2019年の実績)を占めています。

「親族後見人」による財産の使い込みなどの不正行為が増加傾向にあり、その対策として「専門職後見人」が選任されています。

「法定後見制度」の費用

まず、申立てに掛かるコストは1万円以内に収まります。

また、医師による鑑定が必要とされる(これは少ないケース)場合は5万円~10万円の費用負担が見込まれます。

後見人が「専門職後見人」になった場合は、専門職後見人に支払う基本報酬が発生します。

この費用の目安は、

管理財産額(現金・預金などの金融資産の合計額)が1,000万円:2万円

管理財産額(現金・預金などの金融資産の合計額)が~5,000万円:3万円~4万円

が、被成年後見人が亡くなるまで毎月発生します。

さらに、後見人の管理状況をチェックする成年後見監督人を置いた場合には、毎月約1万円~2万円の費用負担となります。

費用負担を回避できる「後見制度支援信託」

しかし、この費用負担を回避する方法はあります。「後見制度支援信託」という制度です。

後見制度支援信託」は、被後見人の財産のうち日常的な支払いに必要なお金を後見人が管理し、それ以外の預貯金を信託銀行に預けるという仕組みです。

これによって

家族後見人の不正リスクが減少するため、専門職後見人は不要となり親族後見人が後を継ぐことになり、それ以降の費用負担がなくなります。

実際にこの制度の利用が認められるケースがここ数年間で急増しています。

この制度の相談窓口は、

・ 家庭裁判所(許認可機関)

・ 市区町村の高齢者福祉課

・ 社会福祉協議会

・ 地域包括支援センター

等です。

また、申立てに必要な書類の枚数や記入欄はやや多いものの、記入方法を示したガイドラインやひな型もあるため申立て人が作成できます。

「任意後見制度」

任意後見制度

次は「任意後見制度」について少し触れておきます。法定後見制度と仕組みは異なります。

「任意後見制度」は、判断能力が低下する前、つまり元気なうちに本人が自ら選んだ後見人を決めておくことを公正証書で契約しておき、本人の判断能力が不十分となった際に任意後見人は任意後見監督人の選任を家庭裁判所に申しでて、任意後見が開始されます。

一般的には、後見人が身内であれば、法定後見制度に比べて費用負担が安く済むのが特徴です。

「家族信託」

家族信託は「家族を信用して本人の財産管理等を任せる」という意味です。

家族信託」とは、本人の判断能力があるうちに本人所有の財産の管理・運用・処分を親族などに委託する制度のことです。

具体的には、

預貯金の管理・解約、株式・債券等の管理・運用、土地活用や建物の管理・売却、本人が経営する事業の承継、世代を超えた相続財産の受け継ぎ等について、信託契約を本人と交わした親族などが実行する

ということです。

なお、株式や債券等の有価証券については、家族信託の口座開設に対応していない証券会社もありますので、これに関しては確認が必要です。

まず、委託者(財産を託す人)が受託者(財産を託された人)と財産の管理や処分等についての信託契約を結び、受託者が財産を管理・処分して得た利益を委託者が受け取ります。

利益を受け取る人を受益者と言います。これを親子関係でみた場合には、父親が委託者と受益者、息子が受託者です。

また、委託者と受託者は同一であることが一般的ですが、受託者や受益者が複数のケースも存在します。

「家族信託」の費用

主な費用は、

・ 司法書士や弁護士などの専門家に支払うコンサルティング報酬

・ 公証役場の手数料、不動産がある場合の信託登記に関わる登録免許税や登記手続き報酬

などですが、家族信託開始後の費用は発生しないのが一般的です。

全体の費用は、目安として信託財産の1%~2%が相場のようです。

たとえば、

預貯金:2,000万円

土地・建物:3,000万円(市区町村から毎年郵送されてくる固定資産税納付通知書に記載の固定資産税評価額)

信託財産合計:5,000万円

の場合には、費用総額は約50万円~100万円かかります。

さらに、受託者の管理状況をチェックする信託監督人を置いた場合は、毎月約1万円(相場)の費用を負担しますが、これは任意です。

相談および依頼先は、司法書士、弁護士、行政書士、税理士等の専門家です。

利用の際には家族でよく話し合う

ここでは制度についての詳細な解説やメリット・ディメリットについて触れていません。

利用を検討されている場合には家族でよく話し合ったうえで、不明な部分を上述の相談窓口や専門家などに問い合わせることをおすすめします。

今後、この制度のニーズに合った利用をさらに拡大させていくためには、まだいくつかの課題があります。

それは、制度の簡素化、分かり易さ、費用負担の軽減などですが、利用促進に向けた国の取り組みを切に期待したいです。(執筆者:CFP、1級FP技能士 小林 仁志)