
相続人は家族だけだと思っていても、戸籍をたどると前婚の子や養子など、思わぬ相続人が見つかることがあります。戸籍集めは「被相続人の出生から死亡まで」とよく言われますが、実際に集める範囲は、誰が相続人になるかによって変わります。
相続人調査とは、相続人を戸籍で確定する作業
相続人調査とは、被相続人(亡くなった方)の戸籍をたどり、法律上の相続人[2]が誰であるかを客観的に確定させる作業です。頭の中で「相続人は自分たちだけ」と思っていても、それだけでは手続きは進みません。相続関係を戸籍という公的な記録で示して初めて、遺産分割や名義変更に入れます。
なぜここまで厳密に確定させるのかというと、民法907条[3]は、共同相続人が協議で遺産を分割できると定めているためです。国税庁の案内でも、遺言書がない場合には相続人全員で遺産の分割について協議するとされています。相続人が一人でも欠けたまま行った協議は無効になり、後から相続人が判明すれば、原則としてやり直しになります。
見落としやすいのが、家族が把握していない相続人の存在です。前の結婚のときの子ども、認知した子ども、養子縁組をした子どもなどは、日ごろの付き合いがなくても法律上は相続人になります。戸籍を出生までさかのぼって初めて分かるケースもあり、思い込みで進めると後戻りできない事態を招きかねません。集めた戸籍一式は、預貯金の払戻しや不動産の名義変更などの手続きでも提出を求められるため、いずれにしても避けて通れない作業です。
集める戸籍は出生から死亡まで、ひとつながりに
相続人調査で集めるのは、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍です。人は結婚や転籍、法律の改正などで戸籍を何度も作り替えており、一番新しい戸籍だけでは過去の家族関係が分かりません。途中が一つでも抜けると相続人を確定できないため、切れ目なくつなげる必要があります。
戸籍には大きく3つの種類があります。今の家族関係を示す「戸籍謄本(全部事項証明書)」、在籍者が全員いなくなった「除籍謄本」、そして法改正で作り替えられる前の古い様式の「改製原戸籍謄本」です。出生までたどると、この3種類を行き来しながら集めることになります。
集める範囲は、誰が相続人になるかで変わります。とくに兄弟姉妹が相続人になるケースでは、被相続人本人の戸籍だけでなく、その父母それぞれの戸籍までさかのぼる必要があります。

兄弟姉妹が相続人になるのは、被相続人に子や孫がおらず、父母や祖父母もすでに亡くなっている場合です。父母の戸籍までさかのぼるのは、被相続人の兄弟姉妹が全部で何人いるのかを漏れなく確認するためです。なお、兄弟姉妹がすでに亡くなっているときは、その子である甥・姪までが代襲相続人になります。
手順は本籍地をさかのぼる作業
自分で行う場合は、新しい戸籍から古い戸籍へと一つずつさかのぼっていきます。まず死亡時の本籍地を確認し、その市区町村で被相続人の最新の戸籍を取ります。本籍地が分からないときは、本籍の記載がある住民票の除票などで調べられます。
次に、取り寄せた戸籍の記載を読み、一つ前の本籍地や従前の戸籍を突き止めます。転籍していればその前の市区町村へ、様式が改められていれば改製原戸籍へと、記載を手がかりに順にたどっていきます。これを出生時までつなげて、初めて連続した戸籍がそろいます。
出生までたどれたら、確定した相続人それぞれについて、現在の戸籍や住所(住民票)も確認します。相続人が今も生存しているか、どこに住んでいるかまで押さえて、相続人調査は完了です。
自分で集めるときの落とし穴
自分で進める一番の壁は、古い戸籍の読みにくさです。改製原戸籍や除籍謄本には手書きで旧字体のものもあり、記載の意味をたどるだけで時間がかかります。一か所でも読み違えて前の戸籍を取り逃すと、そこで相続人調査の鎖が切れてしまいます。
本籍地が各地に散らばっている点も負担になります。転勤や引っ越しで本籍を何度も移していると、そのたびに別の市区町村へ請求することになり、手数料や手間が重なります。
そして最も怖いのが、相続人の見落としです。戸籍が一つでも抜けていると相続人を確定できず、その状態で遺産分割協議を進めても無効になりかねません。金融機関や法務局に提出した後で不足を指摘され、集め直しになることも珍しくありません。手続きに期限のある相続放棄や相続税の申告では、この遅れがそのまま影響します。範囲の見極めや古い戸籍の読解に不安があれば、司法書士や弁護士などの専門家に依頼する方法もあります。
広域交付と法定相続情報証明制度で負担を減らす
戸籍集めの負担は、近年の制度改正でかなり軽くなりました。令和6年3月1日に始まった戸籍証明書等の広域交付では、本籍地が遠くにあっても、本籍地以外の市区町村の戸籍担当窓口で戸籍謄本などを請求できます。本籍地が全国に散らばっていても、1か所の窓口でまとめて請求できるのが大きな利点です。
ただし、この広域交付にはいくつかの制限があります。請求できるのは本人・配偶者・父母や祖父母などの直系尊属・子や孫などの直系卑属に限られ、郵送や代理人による請求はできません。窓口では顔写真付きの本人確認書類が必要です。また、コンピュータ化されていない一部の古い戸籍は対象外で、その分は従来どおり本籍地への請求が残ります。とくに兄弟姉妹が相続人になるケースでは、被相続人の父母の戸籍だけでなく、戸籍が違う兄弟姉妹側の戸籍確認が必要になることがあり、その部分は広域交付で取り切れない場面があります。
集めた戸籍を活用する仕組みも用意されています。平成29年5月29日に始まった法定相続情報証明制度では、被相続人と相続人の関係を一覧にした図(法定相続情報一覧図)と戸除籍謄本等の束を法務局(登記所)に提出すると、登記官の認証文が付いた写しを交付してもらえます。手数料は無料です。以後はこの写しを戸除籍謄本等の束の代わりに使えるため、相続登記や預貯金の払戻しなど複数の手続きで戸籍を何度も出し直す手間が省けます。
土台を固めてから、遺産の話へ
相続人調査は、遺産分割や名義変更に進む前の土台です。相続人が一人でも欠けた協議は無効になるため、戸籍で出生から死亡までをたどり、相続人を漏れなく確定することが欠かせません。直系だけなら広域交付でかなり楽になりますが、兄弟姉妹が絡む場合や古い戸籍が多い場合は、範囲の見極めと読解が難しくなります。迷ったら早めに司法書士や弁護士などの専門家に相談すれば、やり直しを避けて手続きを進められます。


