
親の後見人に選ばれると、通帳も印鑑も預かることになります。これで一通りのことは任せてもらえる、と考えたくなる場面です。ところが実際には、後見人の名前では書けない書類があります。医療行為への同意がその代表です。何ができて何ができないのかを、就く前に家族で確かめておきましょう。
母の後見人に選ばれた50代の戸惑い
「通帳は預かれたのに、手術の同意書は書けないと言われました。」母親の成年後見人に選ばれた50代の会社員は、病院の窓口でそう告げられて言葉に詰まりました。裁判所から選任の通知が届き、金融機関の手続きも一通り終えた矢先のことです。財産のことを任されたのだから、治療のことも任されていると考えていました。
後見人の権限は、この点で区切られています。区切りを知らないまま就くと、必要な場面で動けません。
後見人ができるのは、本人に代わって契約を結ぶこと
成年後見人は、本人の財産を管理し、財産に関する法律行為について本人を代表します(民法859条1項)。その事務を行うにあたっては、本人の意思を尊重し、心身の状態や生活の状況に配慮しなければならないとされています(民法858条)。
厚生労働省のガイドラインでも、成年後見人等は民法の規定により、本人の財産管理や、本人に代わって医療・介護・福祉サービス等の契約の締結を行うことができるとされています。入院の契約、施設への入所契約、介護サービスの利用契約、その費用の支払いは、いずれも後見人の仕事の範囲に入ります。
医療への同意と身の回りの世話は、職務の外にある
一方で、手術や治療そのものに同意する権限は与えられていません。同じガイドラインは、成年後見人等の第三者が医療に係る意思決定・同意ができるとする規定はなく、本人に提供される医療に係る決定・同意を行うことは後見人等の業務に含まれているとは言えない、としています。これは後見人の権限の話であり、家族の誰も関われないという意味ではありません。
身の回りの世話も同様です。同ガイドラインは、居室の明け渡しや転院・退院の付き添いのような事実行為は、後見人等の業務として行うものではないとしています。

自宅を売るときは、家庭裁判所の許可が要る
就いたあとも、家庭裁判所との関わりは続きます。本人が住んでいる建物やその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除、抵当権の設定などの処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法859条の3)。家庭裁判所は、いつでも後見の事務の報告や財産目録の提出を求め、財産の状況を調査することができます(民法863条1項)。
報酬も同じです。家庭裁判所が、後見人と本人の資力その他の事情によって、本人の財産の中から相当な報酬を与えることができるとされています(民法862条)。金額を後見人の側で決めるものではありません。
就く前に、線引きを家族で分けておく
後見人にできるのは、本人に代わって契約を結び、財産を管理することです。医療行為への同意や介護そのものは、その外にあります。線引きを知らないまま引き受けると、病院や施設の窓口で戸惑うことになります。誰が何を担うのかを家族のあいだで先に分けておけば、後見人になった人が一人で抱え込まずにすみます。


