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高齢者の定義が変更されても、年金の支給開始を75歳にできない理由 71歳を越えて支給なら「払い損」に

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高齢者の定義が変更されても、年金の支給開始を75歳にできない理由 71歳を越えて支給なら「払い損」に

高齢者の定義が65歳から75歳へ

日本老年学会と日本老年医学会のワーキンググループが、2017年1月5日の会見で、高齢者の定義を「65歳以上」から、「75歳以上」に変更するよう提言しました

日本の社会保障制度は、65歳を基準にしているものが多く、例えば老齢基礎年金や老齢厚生年金などの支給開始は、原則として65歳からになっております

また介護保険は40歳以上65歳未満だと、老化が原因とされる16の特定疾病に起因にして、介護が必要になった場合に限り、保険給付を受けられますが、65歳以上であれば疾病の種類にかかわらず、保険給付を受けられます

その他に自治体の高齢者向けサービス(例えば水道料金の減免、配食サービス、バスやタクシーなどの料金に対する補助)も、65歳を基準にしている場合が多いようです。


年金支給開始は75歳以上に変更するのは難しい

高齢者の定義が65歳以上から75歳以上に変更されることにより、このような社会保障や自治体のサービスを受けられる年齢も、75歳以上になるのではないかと、不安が広がっております。

ただ年金の支給開始年齢については、次のような理由があるため、75歳以上に変更するのは難しいと考えております

男性は納付した保険料の約1.6倍、女性は約2.2倍の年金が受給できる

会社員などが加入する厚生年金保険の保険料や、原則65歳になってから受給できる老齢厚生年金は、給与の水準によって金額が変わってくるので、加入の損得を計算するのは簡単ではありません

しかし自営業者などが加入する国民年金の保険料や、原則65歳になってから受給できる老齢基礎年金は、未納や免除の期間がなければ全員が同じ金額なので、加入の損得を簡単に計算できるのです。

国民年金の保険料

例えば2016年度の国民年金の保険料は1万6,260円であり、これを20歳から60歳まで欠かさずに納付すると、780万4,800円(1万6,260円×12か月×40年)になります。

また国民年金から支給される老齢基礎年金は、20歳から60歳まで欠かさずに保険料を納付すると、2016年度は78万0,100円(月額では6万5,008 円)になります

平均余命から受給できる老齢基礎年金を考える

厚生労働省のサイトの中にある、「1. 主な年齢の平均余命(pdf)」というページを見ると、国民年金に加入する義務が発生する20歳の平均余命は、2015年は男性が61.17歳、女性が67.37歳です。

平均余命とは「平均してあと何年生きられるか」を示すものなので、20歳の方は平均すると、男性は81.17歳(20歳+61.17歳)、女性は87.37歳(20歳+67.37歳)まで、生きることになります

老齢基礎年金は上記のように、原則65歳から支給されるので、平均すると男性は16.17年(81.17歳-65歳)、女性は22.37年(87.37歳-65歳)に渡り、老齢基礎年金を受給します。

この男女別の平均の受給期間に、老齢基礎年金の月額である6万5,008 円を掛けると、次のように生涯に受給できる老齢基礎年金の、平均額が算出できます。

男性:16.17年 × 12か月 × 6万5,008 円=約1,261万4,152円

女性:22.37年 × 12か月 × 6万5,008 円=約1,745万747円

つまり20歳から60歳まで国民年金に加入すると、生涯に780万4,800円の保険料を納付し、平均すると男性は約1,261万4,152円、女性は約1,745万747円の、老齢基礎年金を受給するのです。

そうなると平均的な寿命まで生きれば、男性は納付した保険料の約1.6倍、女性は約2.2倍が、自分のところに戻ってくるのです

年金の支給開始が原則75歳に引き上がると男性は払い損になる


もし老齢基礎年金の支給開始が原則75歳になった場合、平均すると男性は6.17年(81.17歳-75歳)、女性は12.37年(87.37歳-75歳)に渡り、老齢基礎年金を受給します。

この男女別の平均の受給期間に、老齢基礎年金の月額である6万5,008 円を掛けると、次のように生涯に受給できる老齢基礎年金の、平均額が算出できます。

男性:6.17年 × 12か月 × 6万5,008 円=約481万3,192円

女性:12.37年 × 12か月 × 6万5,008 円=約964万9,787円

20歳から60歳まで国民年金に加入すると上記のように、生涯に780万4,800円の保険料を納付します。

そのため老齢基礎年金の支給開始が原則75歳になると男性は、「生涯に納付する保険料>受給できる老齢基礎年金の平均額」となり、300万円程度の払い損になるのです。

国民年金の保険料や老齢基礎年金の金額は、今後の「物価」や「現役世代の賃金」の変動率により変わっていくので、これらはあくまで目安にすぎません。

ただ国民年金の保険料や老齢基礎年金の金額が、このまま変わらないと仮定した場合、男性でも老齢基礎年金の支給開始が原則71歳以前なら、なんとか払い損にならないので、支給開始年齢の引き上げは、この辺りが限度だと思うのです。

健康寿命から考えても支給開始年齢の引き上げは71歳程度が限度

平均余命とは上記のように、各年齢の方が平均して、あと何年生きられるかを示すものであり、0歳の平均余命は一般的に、「平均寿命」と呼ばれております。

この平均寿命という言葉は、何度も聞いたことがあると思うのですが、その他に「健康寿命」というものがあり、これは「健康上の問題がない状態で、日常生活を送れる期間」を示しております。

内閣府が発表している高齢社会白書の中にある、「3. 高齢者の健康・福祉(pdf)」というページを見ると、2013年の日本人の健康寿命は、男性が71.19歳、女性が74.21歳だとわかります。

このように男性は71歳くらいになると、健康上の問題がない状態で、日常生活を送れなくなる可能性が高くなり、そうなれば働くのも難しくなるはずです。

それなのに年金を受給できないことになると、生活ができなくなってしまうので、こういった意味でも年金の支給開始年齢の引き上げは、この辺りが限度だと思うのです

将来的な年金の支給開始年齢は67歳~68歳と考えるのが現実的


冒頭に記載しましたように、高齢者の定義の変更を提言したのは、日本老年学会と日本老年医学会のワーキンググループという、老年研究の専門家の皆さんです。

数年前も今回と同じように、年金の支給開始年齢に関連した専門家の発言が、世間を騒がせたことがありました。

それは高齢者の就業や社会保障などの専門家であり、かつて社会保障制度改革国民会議の会長を務めていた、清家篤さんによるものです。

清家さんは2013年6月3日に開催された、社会保障制度改革国民会議の会合の後に、年金の支給開始年齢について、「67、68歳、あるいはもう少し上の方まで引き上げていくのは、あってしかるべきではないか」と発言しました

個人的にはこちらの発言の方が、年金の将来像を示しているような気がするので、年金の支給開始が67歳~68歳になっても大丈夫なように、確定拠出年金などを活用して老後資金を貯めたり、人生設計を考えたりした方が、現実的だと思うのです。(執筆者:木村 公司)

《木村 公司》
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執筆者:社会保険労務士 木村 公司 木村 公司

1975年生まれ。大学卒業後地元のドラッグストアーのチェーン店に就職。その時に薬剤師や社会福祉士の同僚から、資格を活用して働くことの意義を学び、一念発起して社会保険労務士の資格を取得。その後は社会保険労務士事務所や一般企業の人事総務部に転職して、給与計算や社会保険事務の実務を学ぶ。現在は自分年金評論家の「FPきむ」として、年金や保険などをテーマした執筆活動を行なう。 【保有資格】社会保険労務士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー2級、年金アドバイザー2級、証券外務員二種、ビジネス実務法務検定2級、メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種 寄稿者にメッセージを送る

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