とある100人規模の会社(A社)の人事部長さんから相談がありました。
ウチの所定労働時間は週40時間なので、社会保険の適用から外れることになるけど、長く働いてきたので時給が高く、月給にすると12万円くらいになる。
だから旦那さんの扶養にも入れない。今のまま、社会保険の被保険者でいさせてあげられないだろうか」
社長さんも同じように、配慮してあげたいとおっしゃっているとのこと。
従業員さんを大切に思う気持ちにほっこりするお話ですが、社会保険の資格を喪失して国保・国民年金に加入するよう、そのパート従業員さんを説得していただくことになりました。
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目次
社会保険の適用は、労働時間及び労働日数で決まる
社会保険(健康保険と厚生年金保険)の被保険者として適用される要件は、その人が契約している「1週間の所定労働時間」及び「1か月の所定労働日数」で決まります。
その事業所の正社員の「概ね4分の3」であること。(「4分の3要件」と呼ばれます)
「週30時間以上で契約したら社会保険に加入」といわれるのは、正社員の週所定労働時間を40時間と就業規則に定めている会社が一般的だからです。
拘束時間が9時から17時、昼休憩が1時間で完全週休二日制の会社の場合は「1日7時間、週35時間」となり、週26時間15分以上で契約している人は適用対象となります。
パートの社会保険適用基準が変わる
先ほど述べた「4分の3要件」は昭和55年6月6日各都道府県保険課(部)長あてに発せられた“内かん”で示された基準であり、きちんと法律に規定されたものではありませんでした。そして「概ね」という曖昧な表現が付いています。
平成28年10月からは、年金機能強化法第3条によりこの曖昧な部分がなくなり、「4分の3要件」が明確に法制化されます。
また、「4分の3要件」で適用を外れても、次の条件をすべて満たす人は社会保険に加入することになります。
(2) 勤務期間1年以上
(3) 月額賃金8.8万円(年収106万円)以上
(4) 学生ではない
(5) 社会保険の対象となっている従業員数501人以上の企業に勤務
A社は100人規模ですので、10月以降も「4分の3要件」のみ適用され、週24時間で契約するBさんが適用除外となるのは明らかです。
しかし、せめてもの経過措置として、9月までは現行の曖昧な部分を利用して社会保険に適用させることはできないだろうか…ということで、年金事務所の厚生年金適用調査課に問い合わせてみました。
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従業員間の「公平性」を考えると、経過措置は現実的ではない
年金事務所に相談した結果、経過措置を設けるのは現実的ではなく、やはりBさんには健康保険と厚生年金の被保険者資格を喪失していただくことになりました(雇用保険の被保険者資格は継続します)。
その理由は、次のとおりです。
(2) 社会保険に加入したくないがために労働時間を抑制している従業員もいるなかで、(1) を徹底させることは難しい。
専門的立場から言うと、労働時間を抑制して社会保険の適用を逃れるのは自らの社会保障のレベルを下げることにつながり、必ずしもお得な策とは言えないのですが、「扶養の範囲」と決めて働く人は多いですね。
いずれにしても、週4日(32時間)と週3日(24時間)の1日の違いが大違い。
Bさんにはぜひ、家庭の事情が解決したら社会保険の被保険者に復帰していただきたいと願っています。
家族の被扶養者となる収入基準は、直近の収入を年収換算する
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社会保険の適用を外れたら、家族の被扶養者になれないか、と考えるのが普通です。
しかし、そこにはいわゆる「130万円の壁」が存在し、月収12万円、年収144万円のBさんは被扶養者になれません。
(最近話題になっている「106万円の壁」とは、従業員数501人以上の企業で週20時間以上働くパートさん等が自分で社会保険に加入して保険料を負担することとなる基準のことをいいます。本人が適用されるので、家族の被扶養者にはなれません)
被扶養者となるための収入基準は、直近の収入を年収換算して判定されます。パート収入の場合は月額10万8,333円以下、雇用保険のいわゆる失業給付等を受給している人は日額3,611円以下(雇用保険の給付の場合は日額の360倍で計算する)が基準となります。
「今年はまだ130万円に達していないから大丈夫。130万円に届きそうになったら仕事を休めば問題ない」というものではないのでご注意ください。(執筆者:服部 明美)