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親の通帳から消えたお金。責める前に確かめたいのは、証拠と時効の二つ

税金 相続・贈与
親の通帳から消えたお金。責める前に確かめたいのは、証拠と時効の二つ
親の通帳から消えたお金。責める前に確かめたいのは、証拠と時効の二つ

お盆に実家へ帰り、親の通帳を開いて手が止まることがあります。覚えのない出金が並んでいても、身内を疑うようで切り出せないものです。遺産の使い込みは不当利得として返還を求められますが、戻る範囲も時効も状況で変わります。何から確かめればよいのかを順に整理します。

帰省中に母の通帳を開いた50代次女の戸惑い

「あのお金は、介護のために使ったものだから」

お盆の帰省で実家に戻り、仏壇の引き出しから出てきた通帳を開いた50代の次女がいます。春に亡くなった母の口座から、覚えのない出金が何度も続いていました。同居していた兄に尋ねると、返ってきたのがこの一言だったといいます。

介護に使ったのなら筋は通ります。ただ、金額は月々の介護費として説明のつく範囲を超えているように見えました。領収書は残っていないといいます。責めるつもりはないものの、このままにしてよいのかも分からないまま、夏休みが終わってしまったそうです。

こうした場面は、相続の相談として珍しいものではありません。感情のもつれに見えますが、法律の側から整理すると、話は「返してもらえるお金なのかどうか」に移ります。

勝手に使われた遺産は「不当利得」として返還を求められる

民法703条は、法律上の原因なく他人の財産や労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした人は、その利益の存する限度で返還する義務を負うと定めています。理由もなく得た利益は返す、という考え方です。これを求める手続きが不当利得返還請求です。

遺産の使い込みが当てはまるかどうかは、次の四つで見ます。

  • 相手が利益を得ていること

  • 相手にその利益を得る法律上の原因がないこと

  • 自分に損失が生じていること

  • 相手の利益と自分の損失に因果関係があること

冒頭のケースで言えば、兄は自分の預金を減らさずに済んでいます。遺産分割が終わるまで遺産は相続人みんなのものですから、自分の取り分を超えて使う権利はありません。母の口座が減れば次女が受け取れる額も減り、その減少は兄の出金から生じています。四つとも当てはまる形です。

見落としやすいのが、相手が後ろめたさを持っていたかどうかは、請求できるかどうかの条件ではないという点です。悪気なく使った場合でも、返す義務そのものは生じます。

取り戻せる金額は、相手が事情を知っていたかで変わる

条件を満たしても、使われた額がそのまま戻るとは限りません。703条が返還の範囲を「その利益の存する限度」としているためです。手元に残っていない分は、原則として取り戻せません。

ここで具体的に見ると、何に使ったかで結論が分かれます。ギャンブルなどで消えてしまった場合は、利益が残っていないと扱われます。一方、生活費に充てた場合は、その分だけ自分の財産を減らさずに済んでいるので、利益は残っていると考えられます。冒頭のケースなら、その支出が母のためのものだったのか、兄自身の暮らしのためだったのかが分かれ目になります。

これに対し、法律上の原因がないと知りながら受け取っていた場合は扱いが重くなります。民法704条は、悪意の受益者は受けた利益に利息を付けて返還しなければならず、なお損害があるときはその賠償の責任を負うと定めています。残っているかどうかにかかわらず、受けた利益に利息が加わり、損害があればその賠償も求められるということです。

なお、相続人が複数いるとき、一人で当然に全額を請求できると決まるわけではありません。一般には、自分の相続分にあたる部分が問題になります。

時効は5年と10年。不法行為の3年とは数え方が違う

注意したいのが時効です。民法166条1項は、債権は、権利を行使することができると知った時から5年、権利を行使することができる時から10年で時効によって消滅すると定めています。不当利得返還請求権もこの債権に含まれます。ただし、2020年4月1日より前に生じた請求権では改正前の時効期間が問題になることがあるため、古い出金が含まれる場合は、起算点と適用される時効期間を個別に確認してください。

混同しやすいのが、不法行為による損害賠償請求との違いです。同じ使い込みでも不法行為として請求する道はありますが、民法724条により、損害と加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年と、年数も数え方も別になります。

親の通帳から消えたお金。責める前に確かめたいのは、証拠と時効の二つ

どちらで進めるかによって残り時間が変わるため、まず自分のケースがどちらの入り口に立っているのかを整理しておきましょう。気づいた夏に動き出すのと、次の法要まで置くのとでは、使える時間がまるで違います。

遺産分割の話し合いに戻すという選択肢もある

対応は訴訟だけではありません。2019年7月1日から、使われてしまった遺産を分割の話し合いの中で扱う道が民法に明記されています。

民法906条の2の1項は、遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができると定めています。消えたお金を、まだあるものとして分け方を決められるということです。

この規定には続きがあります。2項は、共同相続人の一人または数人によってその財産が処分されたときは、その相続人については1項の同意を得ることを要しないとしています。使った本人が同意を渋っても、ほかの相続人がそろえば分割の対象に戻せるということです。使い込んだ側が同意を握って話を止める事態を防ぐための決まりです。

ただし、いつ開始した相続にこの扱いが及ぶかは経過措置の確認が要ります。親が亡くなったのが施行日である2019年7月1日より前であれば、原則として従前の例によるため、この道が使えるかどうかを先に確かめてください。

進めるときの順番と、相談できる相手

まず証拠を集めます。口座のある金融機関に取引履歴の開示を求め、いつ、いくら動いたのかを一覧にします。やり取りの記録が残っていれば併せて保管しておきましょう。

次に、返還を求める通知を送ります。決まった形式はありませんが、普通郵便では請求した事実が残らないため、内容証明郵便を使います。そのうえで話し合いに入り、返す金額と時期がまとまったら合意書にします。合意書を強制執行認諾文言付きの公正証書にしておくと、支払いが滞ったときに差押えへつなげられます。話し合いでまとまらない場合に、訴訟を検討する流れです。

相談先は二つあります。弁護士は金額にかかわらず代理でき、弁護士会を通じて金融機関などに照会する制度も使えるため、証拠集めから任せられます。請求額(訴訟の目的の価額)が140万円を超えない場合は、簡易裁判所が扱う範囲(裁判所法33条1項1号)にとどまるため、法務大臣の認定を受けた司法書士に代理を依頼することもできます。

帰省のうちに、通帳の動きだけは見ておく

使い込みの話は切り出しにくいものです。それでも、戻る範囲は残っている利益で決まり、時効にも期限があります。責める前にできるのは、取引履歴を取り寄せて事実を確かめることです。金額が大きいときや話が進まないときは、弁護士や司法書士へ早めに相談してみてください。

《編集部》
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執筆者: 編集部 編集部

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