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英国のEU離脱(Brexit:造語)
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英国では移民を受け入れることで労働力が増え、好景気を背景に経済が発展していったのですが、リーマンショックで世界的に金融不安が蔓延し、大きな景気後退を迎え、それまでの労働力の支えとなっていた移民が、社会の重荷となっていきました。
景気後退による労働のパイが縮小し、英国民は移民に仕事を奪われたという感情が強くなり、その移民への福祉政策への税金投入をも否定し始めました。
シリア紛争激化により難民が急増し、その難民が欧州に大量に流れ込んできました。
難民受入を許容するEUの方針に、EUへの負担金の多い英国としては、お金を出してまで難民に労働や福祉を提供することに不満を抱く国民が増えてきました。
そして国民投票でその不満が爆発したわけです。
それがブレグジット(Brexit:造語)です。
もっともこの流れは英国だけの話ではなく、EU各国にも同じような不満をいだく人々が増えてきています。
右派勢力と呼ばれる、移民難民受入拒否、それがかなわなければEU離脱やむなしという勢力が台頭しだしてきています。
英国にとってEUにとどまるメリットは、人やモノがEU域内では自由に行き来することができるということです。
これが「単一経済圏」、「単一市場」です。
英国とEUの取引は単一経済圏で行われているので、通貨は違いますが、関税面から取引においてはイーブンとなっています。
英国内におけるユーロ取引量も増え、EU域内の金融の中心としての英国の存在も保たれるわけです。
EU離脱となれば、EUとの貿易面で、英国はEU側と交渉のやり直しを迫られ、関税問題も発生してきます。
またユーロ圏との関係もなくなるので、金融の中心を英国に置く必要がなくなります。
英国内経済や不動産市場に多大な影響をもたらすのは必至です。
ここで大きな問題になってくるのがアイルランドです。
英国とEUは海で隔たれていると思われていますが、実は陸続きなのです。
それが北アイルランドとアイルランド共和国との国境問題になります。
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いまは同じEUですから、北アイルランドとアイルランド共和国との行き来は自由です。
国際間交渉ですから、お互いの利益ばかりを押し付けあっても前には進みませんが、英国としては、単一経済圏を維持しながら、かつ北アイルランドとアイルランド共和国との国境も今のままにすることが、望んでいる着地点でしょう。
EU側としては英国の要求はあまりにも身勝手に見えるようで、かつ、これを認めると第二の英国が出てきかねないことを危惧しているようで、ここで断固とした強い態度を見せておきたいという思惑があるようです。
ハード・ブレグジットとソフト・ブレグジット
ここまでの話を踏まえて言葉の整理ですが、「ハード・ブレグジット」は、難民受入拒否を最優先にし、そのためには英国としてのデメリットがあっても仕方がないという立場です。
一方「ソフト・ブレグジット」は、EUの単一市場とのアクセスを維持することを残してEUを離脱することを意味しているようですが、これはかなり難しい着地点かと思われます。
EU側としても、英国とは何らかのつながりを維持しながら離脱を認めたいでしょうが、単一市場とのアクセスを無条件に認めることはできないでしょうし、英国側としてもそこまでは求めなくても、今後のEUと貿易をやりやすくする方法を模索したいと願っているでしょう。
どこかで落ち着きどころを探るために、ここまで協議を重ねてきたのでしょうが、もう時間がない状況に追込まれました。
メイ首相は国内での立場が非常に弱く、国内ハード・ブレグジット派を納得させる交渉ができるかどうかが試されています。
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「ハード・ブレグジット以外は、ブレグジットではない」という強い意見も英国国内にはあって、メイ首相にとって、EU首脳との協議が英国議会で承認される内容であることがどうかも問われることになります。
ハード・ブレグジットになれば、経済は大混乱になるでしょう。
ポンド大幅下落、ユーロもつられて大きく下落するでしょう。
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マーケット不安は円高を招きます。
大きく円高が進めば、日本株価にも大きな影響をもたらします。
当然、英国や欧州株式市場は下落するでしょう。
ハード・ブレグジットは「白紙離脱」ですから、策もなにもない状況下での英国のEU離脱を意味しますから、世界に与えるインパクトは大きいと思われます。
単一市場アクセスとアイルランド国境問題
整理しますと、ブレグジット問題には二つの大きな問題があります。
一つは今まで語ってきた、単一経済圏に英国が残れるかどうか、表現を変えれば英国が単一市場へのアクセスを保てるかどうかという問題と、もう一つ、アイルランド国境問題があります。
このアイルランド国境問題に関して、動きがありました。
EU側のアイルランド国境に関する提案をメイ首相は拒否したのです。
EU側が提案した「バックストップ案」は、EUと英国の通商協定などの代替的な解決策がみつかるまで、北アイルランドが特別な地位を与えられ、EU関税同盟に実質的にとどまるという内容のものでしたが、これをメイ首相は拒否しました。
国境問題は、南北アイルランドの約500キロにわたる国境を鉄条網や検問所などを設けて厳重に警備する「ハードボーダー」をイメージしてください。
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これを回避するためにEU側は、北アイルランドを英国のEU離脱後も事実上、EUの単一市場と関税同盟内にとどめるよう要求しているのです。
メイ首相は、英国議会でこの案は承認されないと踏んだのでしょうね。
メイ英首相の保守党政権を支えている連立与党の北アイルランドの民主ユニオニスト党(DUP)のナイジェル・ドッズ副党首は、
と主張していました。
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EUの要求通りとなれば、連立政権解消の危機に発展しかねないという事情があるようです。
メイ首相は、自身の提案(チェッカーズ計画)について
と説明しました。
メイ首相のチャッカーズ計画とは、7月に英首相公式別荘「チェッカーズ」で閣内合意に至ったもので、モノの移動にだけEUの共通ルールブックを適用し、EU域外から英国経由でEU加盟国に到達する輸入品にかかるEU関税を英国が徴収するというものです。
チャッカーズ計画は、人やサービスを含めた単一市場を目指すEUの方針に反しているとして、ミシェル・バルニエEU首席交渉官などが反対していました。
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北アイルランドとアイルランドの国境管理方法など、いくつかの問題についてはなお両者が一致していない状況です。
それでも、バルニエ首席交渉官は、
と表明しました。
もう時間がない
英国のEU離脱までに、英とEU双方の市民の権利や移行期間など離脱条件を定めた「離脱協定」を発効させるには、今秋の交渉妥結が不可欠であることは前述の通りです。
バルニエ首席交渉官はメイ首相に、英国の秩序ある離脱に向けた具体的な進展が必要だとくぎを刺し、「10月が正念場だ」と強調したとメディアは報じています。
つまり10月の交渉いかんで、場合によっては白紙離脱、つまりハード・ブレグジットの道を選ぶことになりかねないということで、そうなれば欧州マーケットに、大きな影響を及ぼすことになります。
ポンド下落、ユーロ下落、リスク回避の円買いという事態も考えられます。
英国や欧州株価下落も要注意です。
大統領に相当する欧州理事会のドナルド・トゥスク常任議長は、
と述べたと報じています。
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北アイルランドとアイルランドの国境強化を避けるためのEU側の「防御策」は受け入れられないと拒否したメイ首相は、この国境管理厳格化を避けることが大事だと認識しているようです。
9月に開かれた欧州連合(EU)非公式首脳会議では、メイ首相案を残りの27カ国の首相が協議したとされています。
アンゲラ・メルケル独首相は、
と述べたと報じています。
また、27か国は「単一市場については一切妥協しないことで一致している」と強調したともあります。
エマニュエル・マクロン仏大統領は、
と話したとも報じています。
英国内において、メイ首相のチャッカーズ計画をどうやら支持していない雰囲気があるとも言われています。
メイ首相の提案は、EUからの批判だけでなく、英国の与党・保守党内でも不評だとのことです。
与党内からは、これが英国の主権を侵害しているだけでなく、2016年の国民投票で離脱派が支持した内容と異なっているとの声があがっています。
また、最大野党・労働党で影のEU離脱相を務めるサー・キアー・スターマーは、
と述べています。
スコットランドのニコラ・スタージョン第一首相は先に、
と発言しているようです。
EUは明らかに、今のままではこの案を受け入れないどころか、英国保守党内でもかなりの人数が賛成しないし、野党がメイ氏を支持することはないでしょう。
アイルランド国境問題が鍵となりそう
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英紙ガーディアンは、6月21日付紙面で、
メイ首相は、目に見えない国境(関税手続きの簡素化や最小限の貿易規制などの関税取り決め)とかシームレスな国境といっているが、それは英国側でできること。
南アイルランド側ではそれはできない。
面倒な輸出関係書類の準備や税関検査は避けられなくなる。」
と解説しています。
だからこそ、EUは北アイルランドをEU特別地域に指定して、事実上、EUの単一市場と関税同盟に残させる提案をしたようです。
英国のEU離脱交渉は、当初話題になった「手切れ金問題」よりも大きな障害として、2016年3月の英国のEU離脱後のアイルランド国境問題がクローズアップされてきました。
このまま行けば、白紙離脱、ハード・ブレグジットの公算が強くなってきているようですね。
いまマーケットにポジションを持っている人、株を買っているとか外貨投資をしている、特にユーロやポンドに投資している人は、ブレグジットの行方に、十分注意してください。
情勢次第ではマーケットから撤退する、できれば現金に換えておくことを考えてはいかがでしょうか。(執筆者:原 彰宏)