
お盆の帰省を前に、親の終活や自分の「もしも」への備えが気になり始めた方もいるのではないでしょうか。亡くなった後の葬儀や解約の手続きを託せるのが死後事務委任契約です。ただし気になるのが費用。令和7年10月1日から公正証書の手数料も改正されました。何にいくらかかり、どこを確認すべきかを家計目線で整理します。
死後事務委任契約で頼める事務の範囲
死後事務委任契約とは、自分が亡くなった後に必要になる各種の手続きを、元気なうちに信頼できる相手へ依頼しておく契約です。委任する相手(受任者)は親族や友人のほか、弁護士・司法書士などの専門家に依頼するケースもあります。契約内容を書面で明確にし、必要に応じて公正証書を利用する方法もあります。
では、どのような事務を頼めるのでしょうか。国の「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」(内閣官房と関係府省庁・令和6年6月)では、死後事務サービスについて、死亡に係る連絡を受けた際の関係者への連絡、葬儀に関する手続や携帯電話の解約等の代行業務などが考えられるとされています。そのうえで、契約締結時に確認すべき具体的な事務の例として、葬儀・火葬・埋葬や供養・法要といった葬送に関する事務、年金・医療保険・税金納付などの行政機関への届出等、家屋等の賃貸借契約への対応、電気・ガス・水道など公共料金の支払・解約、携帯電話の解約が挙げられています。
一方で、見落としやすいのが相続との線引きです。死後事務委任契約はあくまで「事務手続き」を託すもので、財産を誰にどう分けるかという相続の指定はできません。死亡後の遺産の分け方を指定する代表的な手段は遺言です。財産の種類や目的によっては信託や保険なども関わるため、死後事務とは分けて設計しましょう。
たとえば賃貸住宅でひとり暮らしをしている方なら、部屋の明け渡し、電気・ガスの解約、携帯電話の解約、葬儀の手配を誰が行うのかと順に思い浮かべると、委任すべき範囲が具体的に見えてきます。
令和7年10月1日施行後の公正証書手数料
費用の話でまず押さえておきたいのが、手数料の改正です。公正証書の作成手数料を定める公証人手数料令が改正され、令和7年10月1日から、死後事務委任契約のように委任者の死後に事務が処理される委任の公正証書について、専用の手数料規定が新設されました(令和7年政令第263号)。
現在の手数料額は、日本公証人連合会の手数料一覧で次のように案内されています。受任者への報酬の定めがない場合は6,500円、報酬の定めがある場合は、報酬の2倍の額(目的の価額)に対応する手数料の2分の1の額です。あわせて、契約書の正本・謄本を受け取る際には、書面1枚につき300円の交付手数料がかかります。
遺言書を公正証書で併せて作る場合には、遺言側にも手数料がかかります。遺言公正証書では、遺言の目的の価額が1億円以下のとき、財産額に応じた手数料に13,000円が加算される仕組みです(遺言加算・令和7年10月1日施行後の額)。

この表の金額は、公証人手数料令と日本公証人連合会の案内にもとづく現行の額です。改正前の古い金額を載せたままの解説記事も見かけるため、これから契約する方は現行の案内を基準に費用を見積もりましょう。
公的な定価がないサービス料と預託金の考え方
公正証書の手数料と違って注意したいのが、事業者や専門家に支払うサービス料・報酬です。これらには全国一律の公的な基準や定価がなく、金額は契約する相手や委任する範囲によって大きく変わります。報酬・実費・預託金を分けた見積もりを複数取り、何が含まれるかを比較することが大切です。
費用を考えるときは、公正証書の作成費用、委任する事務に対する報酬、そして死後の支払いに充てるお金の準備という3つの視点に分けて整理すると見通しがよくなります。このうち死後の支払いに備えて、葬儀費用や各種精算に必要なお金を生前に受任者へ預けておくのが預託金です。
まとまった額を預けることになるため、ここで大切になるのが透明性の確保です。前述のガイドラインでは、預託金を受ける場合、死後事務の内容等に照らして的確な預託金額を算定し、利用者や推定相続人に丁寧に説明しておくことが望ましいとされています。また、前払金(預託金)は事業者自身の運営資金等とは明確に区分して管理し、利用者へ定期的に管理状況を報告することが望ましいとされています。契約前の見積もりで、サービス内容・費用・支払方法と預託金の管理方法が明確かどうかを確かめましょう。
支払いの設計としては、生前に預託金として預けるほか、遺言で受任者に報酬にあたる財産を遺す方法がとられることもあります。ただし、事業者が利用者から遺贈を受ける形は、利用者の死後に相続人との間で遺言能力の有無などをめぐるトラブルが生じやすいと、ガイドラインも留意を促しています。
費用を抑えたい場合には、複数の事業者や専門家から見積もりを取り、サービス内容と金額の内訳を比較することが基本になります。お住まいの地域の社会福祉協議会や自治体の窓口が、終活や死後事務に関する相談先になる場合もあります。
遺言・成年後見制度・家族信託との役割分担
終活に関わる制度は似た名前が多く、混同しやすいところです。それぞれが受け持つ場面を時間軸で整理すると分かりやすくなります。
死後事務委任契約が受け持つのは、亡くなった後の事務手続きです。これに対し、遺言書は亡くなった後の財産の行き先を決めるもの、成年後見制度は生前に判断能力が低下したときの財産管理や契約をサポートする制度です。また、家族信託は財産の管理・承継を信頼できる家族に託す仕組みの一般的な呼び名で、生前の管理から死後の承継までを設計できる場合があります。
つまり、どれか1つで終活のすべてをカバーできるわけではありません。死後の事務は死後事務委任契約、財産の分け方は遺言書、生前の判断能力低下への備えは成年後見制度というように、目的ごとに組み合わせて検討することが大切です。
国のガイドラインが示す契約前の確認ポイント
死後事務を含む終身サポートサービスを巡っては、令和6年6月に内閣官房と関係府省庁が「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」を策定しました。事業者の適正な事業運営を確保し、利用者が安心してサービスを利用できるようにすることを目的としたもので、利用者が簡便に確認できるチェックリストも作成されています。
契約書で特に重要なのが、契約が委任者の死亡で終わらないことの明記です。民法では委任者の死亡が委任契約の終了原因と定められているため(民法653条1号)、何も書かなければ死後の効力を争われるおそれがあります。ガイドラインでは「委任者が死亡した場合においても、本契約は終了せず、相続人は、委任者の本契約上の権利義務を承継する」旨を契約に明記することが望ましいとされています。
もう1つ見落としやすいのが、推定相続人との関係です。疎遠であっても、親族が葬儀を行うつもりだったというすれ違いは起こり得ます。ガイドラインでも、利用者の意思に反しない場合には、委任する範囲を決める際に推定相続人等へ事前に説明し、できる限り了解を得ておくことが望ましいとされています。相続人の反対で事務の履行が難しくなった場合に受任者が辞任できる規定を、あらかじめ契約に入れておく方法も示されています。
お盆の帰省を、備えを話し合うきっかけに
死後事務委任契約の費用は、公的に額が定まっている公正証書の手数料と、公的な定価のないサービス料・預託金とに分けて考えると全体像がつかめます。家族や親族が顔を合わせるお盆は、死後の手続きを誰に託すかを話し合うよい機会です。気になり始めたら、見積もりの内訳を確かめながら、弁護士・司法書士などの専門家や自治体の窓口に相談してみましょう。


