
お盆に実家へ帰り、自分や親の「その先」を考える方も多い時期です。財産を社会のために役立てたいと思っても、遺言で寄附するのか、相続した人が寄附するのかで、手続きや税金は変わります。さらに、遺言で寄附するときは、「包括遺贈」と「特定遺贈」の違いを知らないと思わぬ負担が生じることがあります。
遺産を寄附する2つの道筋
自分が遺した財産を社会のために役立ててほしいと考えたとき、寄附という届け方は大きく2つの道筋に分かれます。ひとつは、遺言によって自分の死後に財産を特定の団体などへ渡す「遺贈寄附」。もうひとつは、相続人がいったん相続で受け取った財産を、自分の意思で寄附する「相続後の寄附」です。
この2つは、似ているようで中身が違います。遺贈寄附は、財産を遺す本人が生前に遺言で決めておくものです。相続後の寄附は、財産を受け継いだ相続人が、あらためて自分の判断で行うものです。誰の意思で、いつ、どの財産を動かすのかが異なり、後で見るように関わる税金も変わってきます。
なお、生前に相手と約束して「自分が亡くなったら渡す」と決める死因贈与[2]という方法もあります。これは受け取る側の承諾が必要な契約で、遺贈に関する規定が準用されます。まずは「遺言で遺す」のか「相続人が渡す」のか、入口の整理から始めると迷いません。
遺言で寄附するときの進め方
遺贈寄附の出発点は、遺言書です。遺言の主な方式には、公証人が関わって作成する公正証書遺言と、本人が全文を書く自筆証書遺言があります。どちらでも寄附の意思は遺せますが、亡くなった後の手続きに違いが出ます。
とくに知っておきたいのが「検認」です。検認とは、相続人に遺言の存在と内容を知らせ、遺言書の形状や日付、署名などを確認して偽造や変造を防ぐための家庭裁判所の手続きで、遺言が有効か無効かを判断するものではありません(裁判所)。自筆証書遺言は、原則としてこの検認が必要で、申立先は遺言者の最後の住所地の家庭裁判所です。一方、公正証書遺言は検認が不要です。自筆証書遺言でも、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用して遺言書情報証明書の交付を受ける場合は、検認が要りません。
進め方をおおまかな順路にすると、まず寄附先や専門家に相談し、その団体が寄附を受け付けているかを確認します。次に遺言書を作成し、遺言の内容を実現する遺言執行者を定めておきます。そのうえで、亡くなった後に検認(必要な場合)を経て、遺言が執行され、財産が寄附先へ渡ります。
包括遺贈と特定遺贈、現物型と換価型
遺言で財産を遺す方法には、遺贈のかたちが2種類あります。財産の全部や一定の割合を指定する「包括遺贈」と、特定の財産を指定する「特定遺贈」です。ここを取り違えると、寄附先に思わぬ負担をかけることがあります。
包括遺贈で財産を受け取る包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を持ちます(民法990条)。つまりプラスの財産だけでなく、借金などの負債も割合に応じて引き継ぎます。これに対し特定遺贈は、指定された財産だけを受け取るため、原則として負債は引き継ぎません。寄附を受ける団体にとっては負債のリスクを避けやすく、特定遺贈が選ばれやすい傾向があります。両者の違いを整理すると、次のとおりです。

もうひとつ意識したいのが、財産を「そのまま渡すか」「現金にして渡すか」の別です。不動産や株式などをそのまま寄附する現物型と、遺言執行者が売却して現金で寄附する換価型があります。現物のまま法人へ寄附する場合、その財産を時価で譲渡したものとみなして譲渡所得が課税されることがあります(所得税法59条・国税庁)。国や地方公共団体への寄附は要件なく非課税で、公益法人などへの寄附も国税庁長官の承認を受ければ非課税となる仕組みがありますが、承認には期限や要件があります。売却して現金で渡す換価型なら、金額が明確で寄附先も受け入れやすい一方、売却時の課税を踏まえて進めることになります。
相続財産の寄附と相続税の非課税
相続人が相続で受け取った財産を寄附する場合、要件を満たせば、その寄附した財産には相続税がかからない仕組みがあります(租税特別措置法70条・国税庁)。社会貢献のための寄附を後押しする特例です。
非課税の対象になるのは、相続や遺贈によって取得した財産を、相続税の申告期限までに寄附した場合です。相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日(通常は亡くなった日)の翌日から10か月以内です(国税庁)。寄附先は、国や地方公共団体、法律で定められた特定の公益法人、認定NPO法人などに限られ、寄附の時点で既に設立されている法人であることが必要です。適用を受けるには、相続税の申告書にその旨を記載し、寄附した財産の明細書など一定の書類を添付します。
ただし注意点があります。寄附を受けた法人が2年以内にその財産を公益目的の事業に使わない場合や、寄附によって寄附した人やその親族の相続税・贈与税の負担が不当に減る結果になると認められる場合は、この非課税は適用されません。あわせて、国や地方公共団体、認定NPO法人などへの寄附は、所得税の寄附金控除の対象になることもあります。
寄附を進めるときに気をつけたいこと
まず配慮したいのが、遺留分です。配偶者や子、直系尊属といった相続人には、最低限の取り分である遺留分が保障されています(兄弟姉妹には遺留分がありません)。財産のすべてを寄附する内容の遺言にすると、遺留分を持つ相続人との間でトラブルになりかねません。寄附する割合や、相続人に遺す分とのバランスを考えておくと安心です。
次に、寄附先の確認です。相続税が非課税となる寄附先は法律で限られており、団体によっては現物の財産を受け取れない場合もあります。事前に、その団体が寄附を受け付けているか、どのかたちなら受け入れられるかを確かめておきましょう。寄附先の実績や活動内容、情報の公開状況を見ておくことも、思いを託す相手を選ぶうえで大切です。
こうした判断には、法律と税金の両面が絡みます。遺言書の作成や遺留分への配慮、税の特例の適用は、弁護士や司法書士、税理士などの専門家に相談しながら進めるのが確実です。寄附先の窓口にも、受け入れの可否や手続きを早めに問い合わせておくとよいでしょう。
思いを確実に届けるために
財産を寄附で遺す方法は、生前に遺言で決める遺贈寄附と、相続人が相続後に自分の意思で行う寄附の大きく2つに分かれます。どちらを選ぶかで、手続きも税金も変わってきます。まずは「誰の意思で、いつ、どの財産を、どこへ」を整理し、遺言の方式や包括遺贈・特定遺贈の別を早めに決めておくと迷いません。判断に迷うところは、弁護士や税理士などの専門家や寄附先の窓口に相談しながら、一つずつ進めていきましょう。


