
別居しても夫が住宅ローンを払い続けるのだから生活費は少なくていいはずだ、と言われて黙ってしまう人がいます。ただ、婚姻費用の目安を示す算定表には、誰が家に住み、誰がローンを払っているかという欄がありません。表の数字は、その事情を個別に入力しないところから始まります。
「ローンは俺が払っている」と言われて詰まった40代女性
「あの家のローンは自分が払い続けるのだから、生活費はそんなに要らないだろう、と言われました」
小学生の子どもと自宅に残り、夫が家を出た40代の女性は、話し合いの席でこう告げられたといいます。女性は算定表を見て金額の見当をつけていましたが、その場では言い返せませんでした。ローンを払っているのは事実で、自分が家賃を払っていないのも事実だったからです。
反論できなかったのは、表の見方を知らなかったからではありません。表がそもそも、この論点を個別欄として扱っていないためです。
条文が挙げているのは「一切の事情」
婚姻費用の分担を定めた民法760条は、夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する、としています。いくら分担するかについて条文が書いているのは、この一文までです。金額の決め方までは書かれていません。
同じ民法の752条は、夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない、としています。別居していても婚姻が続いている以上、この関係が終わるわけではありません。
住宅ローンは、条文が排除している事情ではありません。「その他一切の事情」に含めて主張できる余地があります。ただし、主張しなければ何も起きません。
算定表の個別欄に、家は入っていない
裁判所が公表している算定表の使い方を読むと、何が金額を決めているのかがはっきりします。

表を選ぶ段階で見るのは子の人数と年齢、金額を読む段階で見るのは双方の年収です。住まいに関する個別欄は、どこにも出てきません。持ち家か賃貸かを聞かれる場面もありません。
裁判所自身も、この算定表はあくまで標準的な婚姻費用を簡易迅速に算定することを目的としたもので、最終的な金額はいろいろな事情を考慮して定まる、と注記しています。裁判所の判断が算定表の金額と常に一致するわけではない、とまで書かれています。一方で、通常の範囲のものは算定表の金額の幅の中ですでに考慮されている、とも説明されています。
表の金額は、結論ではなく出発点
算定表は、年収と子どもの状況だけで引ける代わりに、誰が自宅に住み、誰が住宅ローンを払っているかという個別事情をそのまま欄に反映する形にはなっていません。「表ではこの額」も「ローンを払っているから減るはず」も、それだけでは結論になりません。話し合いがまとまらない、あるいは話し合いそのものができないときは、家庭裁判所に婚姻費用の分担を定める調停または審判を申し立てられます。契約書と返済の記録は、早いうちにそろえておく価値があります。


