
お盆の帰省で、親の書類から借用書が出てきたという話は珍しくありません。遺産分割で誰が受け取るか決めればいい、と思いがちですが、貸したお金を返してもらう権利は、話し合いを待たずに相続人ごとに分かれています。同じお金でも、預貯金とは扱いがまったく違います。
相続開始と同時に、相続分どおりに分かれる
亡くなった人の財産に属した権利や義務は、相続開始の時から相続人に引き継がれます。相続人が複数いれば相続財産は共有となり、各人が相続分に応じて承継します(民法896条、898条、899条)。
貸したお金を返してもらう貸金債権は、金額で切り分けられる可分債権にあたります。最高裁は昭和29年4月8日の判決で、相続財産のなかに金銭その他の可分債権があるときは、その債権は法律上当然に分割され、各共同相続人が相続分に応じて権利を承継する、と判断しました(民集8巻4号819頁)。
たとえば子ども2人だけが相続人なら、相続分は2分の1ずつです(民法900条4号)。話し合いが終わっていなくても、自分の取り分は借主に請求できます。
当然には分かれない財産もある
見落としやすいのが、同じ考え方では動かない財産です。最高裁大法廷は平成28年12月19日の決定で、共同相続された普通預金債権、通常貯金債権、定期貯金債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象になる、と判断しました。定期預金と定期積金も、平成29年4月6日の判決で当然には分割されないとされています。株式や委託者指図型投資信託の受益権、個人向け国債も、平成26年2月25日の判決で当然には分割されないとされました。
これらは取得者が決まるまで原則として単独では動かせません。預貯金は一定額まで単独で払い戻せますが、その分は遺産の一部を先に取得したとみなされます(民法909条の2)。

遺言がなければ、寄せるには全員の合意が要る
貸金債権を回収する人にまとめられるのでしょうか。被相続人は遺言で共同相続人の相続分を定めることができ(民法902条1項)、特定の財産を特定の相続人に承継させる遺言もあります(民法908条)。遺言で取得者が決まっていれば、その中身が優先します。
遺言がない場合、大阪家庭裁判所の遺産分割調停の手引きでは、土地建物や預貯金などは調停でも審判でも当然に扱えるとされる一方、貸金や賃料債権は相続人全員が合意すれば扱えると区別されています。合意できないときは民事訴訟などで解決を図るとも明記されています。貸金債権について法定相続分を超える部分を承継した人は、遺言や遺産分割の内容を明らかにして借主(債務者)へ承継を通知すると、相続人全員が通知したものとして扱われます(民法899条の2)。
回収に動く前に確かめること
相続分どおりに分かれても、実際に返ってくるかは別の話です。貸したことを示す書面がなければ、証明は難しくなります。返済を求める権利は時効で消滅します(民法166条1項)。期間は貸した時期(債権が生じた時期)で変わり、時効は相手が援用して初めて効きます(民法145条)。時効が完成する前に相手が借金を認めれば、その時から新たに進みます(民法152条1項)。まず借用書と時期を確かめ、迷うなら弁護士や司法書士に相談しましょう。


