
定年が近づくと、これまで貯めてきたお金をいつから、どう取り崩すかが気になり始めます。ですが、蓄えを減らす前にできることがあります。公的年金には、長く働いて増やす、受け取りを遅らせて増やすという「入り」を厚くする手が用意されています。貯蓄に手をつける前に、まず年金でどこまで延ばせるか。就労延長と繰下げ、二つの手を紹介します。
65歳を前に、年金を受け取り始めるか働き続けるか迷う会社員
「体はまだ動くし、あと数年は働けそうなんです。それなら、年金はいつから受け取るのがいいんでしょうか」。再雇用の話が出ている60代の方が、こう漏らすことがあります。手元の貯金をいつ切り崩すかばかり考えていたけれど、受け取る年金そのものを厚くできるなら、そのほうが資産は長持ちする。そう気づいて、判断の手が止まる場面です。
老後資金を延ばすというと、貯めたお金をどの順で使うかに目が向きがちです。ですが、取り崩す前に「入り」を増やせれば、同じ蓄えでも減り方はゆるやかになります。公的年金には、そのための手が二つあります。
60歳を過ぎても働けば、厚生年金は毎年増えていく
一つ目は、長く働くことです。60歳以降も厚生年金に加入して働けば、納めた保険料の分だけ年金額に上乗せされていきます。以前は退職するまで反映されませんでしたが、いまは65歳以上70歳未満で働く方について、毎年9月1日を基準日として翌10月分の年金から、受給中でも増額が反映されるようになりました。これを在職定時改定といいます。働きながら、年に一度、年金が少しずつ育っていくイメージです。
気をつけたいのが在職老齢年金の仕組みです。老齢厚生年金を受け取りながら働く場合、総報酬月額相当額(標準報酬月額に、直近1年間の標準賞与額の合計を12で割った額を加えたもの)と、老齢厚生年金の基本月額の合計が一定額を超えると、老齢厚生年金の一部が支給停止になることがあります。この基準となる支給停止調整額は年度ごとに見直され、令和8年度は月65万円です。合計がこの額に収まっていれば、老齢厚生年金は全額支給されます。
受け取りを遅らせる「繰下げ」で、年金額そのものが増える
二つ目は、受け取りを後ろにずらす繰下げ受給です。老齢年金は原則65歳から受け取れますが、請求を遅らせると1か月あたり0.7%ずつ増額されます。66歳から75歳までの間で選べ、最も遅らせれば最大84%増えます(昭和27年4月2日以後に生まれ、平成29年4月1日以後に受給権が発生した方の場合。それ以前の方は上限70歳・最大42%です)。一度上がった率は生涯続きます。

ただし、繰下げを待つ間は、繰り下げる年金が支給されません。その間の生活費は給与や貯蓄でまかなう必要があります。また、65歳以後も厚生年金に加入して働き、在職老齢年金で支給停止となる部分がある場合、その停止額に相当する部分は繰下げ増額の対象になりません。繰下げは無条件に得なのではなく、待っている間の暮らしをどう支えるかとセットで考える手です。
貯蓄に手をつける前に、まず年金でどこまで延ばせるか
老後資金を長持ちさせる近道は、まず「入り」を厚くすることにあります。長く働けば厚生年金は毎年増え、受け取りを遅らせれば年金額そのものが上乗せされます。どちらも貯蓄を減らさずに使える手です。ただし、働けば在職老齢年金で調整される場合があり、繰下げの間は、繰り下げる年金が入りません。ご自身の暮らしや健康と照らし、無理のない組み合わせを考えてみてください。迷うときは、お近くの年金事務所で試算してもらえます。


