機関投資家や個人投資家に向けてのパンローリング主催「投資戦略フェア2019」が、今年も東京ドームシティプリズムホールで開催されました。
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毎年参加しているのですが、今年はトレード関係者でない唯一のスピーカーである、日本人プロポーカープレイヤー木原直哉氏の講演を聞く機会を得ることができました。
今回は、その木原氏の講演報告をすることで、投資に関する心構えを考えてみようと思います。
投資に限らず、いろんな場面で活用できる考え方だと思います。
目次
ギャンブルの定義
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よく投資はギャンブルだと表現がなされますが、あれは「間違いである」ということから講演は始まりました。
プロのポーカープレイヤーとしての言葉で、ポーカーはビジネスや投資に似ているとのことで、したがって「ポーカーもギャンブルではない」と断言されています。
東京大学で物理や数学を勉強された木原氏は「ギャンブル」というものを
と定義されています。これを裏返せば
期待値がプラスになるものを投資対象に選ぶ
ことができれば、投資はギャンブルでなくなるということになります。
つまり正しくリスクがコントロールされた状態で期待値がプラスであれば、それはギャンブルではないということになりますね。
木原氏が言う「ビジネスや投資はギャンブルではない」というのは、正しいリスク管理の上に「プロ」が行うものを意味しているようです。
ここで言う「プロ」は、個人投資家に対する「機関投資家」という意味ではなく、「期待値をプラスにするための研究や検証の努力を惜しまない」人ということなのでしょう。
また「期待値がプラス」というのは、「1か月単位で常に負けない」状態をいうのだそうです。
これも見方を変えれば「期待値をプラスにするために正しくリスクをコントロールする」ことが重要だとも言い換えられますね。
ここ、投資におけるポイントになりますね。
「実力」がなければなにをやっても負ける
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これはなかなか厳しい言葉ですが、木原氏は、ご自身にトレードの「実力」がないからトレードをしないそうです。
マーケットはプロの集まりで、実力がない素人は絶対にプロには勝てないというのが木原氏の信念のようです。
それはポーカープレイヤーとして、木原氏の「プロ」としてのプライドから発せられる言葉なのでしょうか。
木原氏は「プロ」になるための努力は惜しまず、ポーカーゲームに関して、さまざまな「検証」と「研究」を続けてこられたきたそうです。
常にトッププレイヤーを研究対象とし、実力が自分よりも数段上の人のそばばかりにいたそうです。
決して居心地の良い環境に浸っていなかったということですね。
これぞ「プロ」を目指す自覚ですかね。
当たり前ですが、何事にも実力をつけるには研究が必要で、ただ単に努力するだけでなく、(「無駄な努力はしない」という意味で)効率的な努力を惜しまないということなのでしょう。
これも木原氏の言葉です。何のためにこの練習をやるのか、行動の理由をしっかりと把握することが大事だとのことです。
あらためてここで言う「プロ」という概念は気持ちの問題で、その道で成功しようと強く思い、そのためには努力を惜しまないという人のことを指すのでしょう。
結果はおのずとついてくるのでしょうが、結果を求め結果に拘るのが「プロ」と言えるのでしょう。
「実力がないと、回数を重ねれば重ねるほど結果が出ない」と木原氏は断言されておられます。
このことは投資においては非常に大事で、実力がなければ長くやっていても勝てない。
リスク管理をいくらやろうと、技術手法を駆使しようと、メンタルを学ぼうと、実力がなければ全て無駄。
実力があってのリスク管理であり技術だと、木原氏の言葉を借りればこう断言できそうです。
実力がなければ技術もメンタルも関係なく、どんな立派な道具を用意しても無駄だと言えそうですね。厳しい言葉です。
これってイチローの打撃論にも通じるところがありますね。
東京ヤクルトの青木選手のせりふでもあり、元中日監督の落合氏も同じようなことをおっしゃっておられました。
「運」も大事
ポーカーゲームの世界では、実力がないと回数を重ねれば重ねるほど結果が出ないのですが、実力がなくても、試行回数が少ないと勝つチャンスがある場合があるそうです。
それは「運」次第と解説されています。
この「運」とは後述します「確率」の話であり、勝ったからといってそれは実力ではないということです。
短期戦は「偶然の勝ち」が見込まれる
偶然の勝ちは「運」でしか得られず、その「運」は確率的には必然の現象で、従って「偶然の勝ち」は実力ではないとのことです。
そしてこれは木原さんのポーカープレイヤー世界チャンプならではの表現ですが、何度の修羅場をくぐってきた経験から、当たり前なのですが
「祈っても期待値(勝つ確率)は上がらない」のだそうですよ。
「運」は確率
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ポーカーは半分は「運」が作用するゲームだそうです。でも「運」は祈ることや善行を積むことで生まれるものではないとおっしゃっておられました。
ポーカープレイヤーは、自分の手札に引くカードの確率計算で勝負するタイプと、相手の心理を読み解いて行う「ブラフ(ポーカーフェイスなんていいますよね)」で勝負するタイプがあるそうで、最終的にはどちらも大事だそうです。
木原氏は、自身が数学を勉強してきたせいか前者を究める道を進まれ、徐々に「ブラフ」を磨いていったそうで、中には「ブラフ」先行のプレイヤーもいるそうです。
「運」は確率で説明がつく
サイコロを3個振って出目が「7」以下になる確率は216通り(6^3=216)あります。
例えばサイコロ3個振って全て「1」の合計「3」が出たとき、それを「運」と判断し「ラッキー」と判断するのは自由ですが、ようは確率で言えば、何回か振れば必ずいつかは出てくるものだというのです。
運気を上げれば思い通りにさいころの目を調整できるわけではないということです。
ポーカーのハンド(日本語では役、手役)は1326通りです。
52枚のカードから5枚のカードを選ぶ組み合わせは2598960通り、うち最強のロイヤルフラッシュ(日本ではロヤルストレートフラッシュ)が出る確率は0.0015%です。
でも当たり前ですが「ゼロ」ではありません。
これは今勝ちたいと思っているときに「祈れば必ず出る」ものではありません。
フォー・オブ・ア・カインド(日本ではフォーカード、米国ではクアッズ)が出る確率は0.024%、フルハウスで0.14%です。
ポーカーは「運」が半分作用するゲームですが、残り半分は実力がものをいいます。だから実力は磨かなければダメ、運だけを上げることに専念する行動はおかしいと指摘されます。
神頼みや善業を積んだり神社参りしてもポーカーでは勝てない
確かにポーカーは「運」が左右しますので、運が向いているときがチャンス、そのチャンスをつかめるかどうかがカギだと力説、そして大事なのは、運が良い時にその運をつかめるようにするためにも実力を磨くことが大事だと主張しています。
あるベテラン投資家が「偶然の勝ちが一番恐ろしい」と言っていたのを思い出します。
たまたま投資信託を買って大きく利益を上げたとしても、それが確固たる根拠に基づいて買ったであればよいのです。
しかし、運よく(確率上当然起こりうる結果なのですが)利益を得て「自分はついている」とか「ラッキー」と喜んで、更に投資信託を買い増して、その後に全ての投資信託が下落したという話をよく聞きます。
神頼みばかりで、実力を磨こうとしないのはダメですね。
ポーカーは負けを小さくし続けるゲーム
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ポーカーは手札の情報がすべて公開されていないため「不完全情報ゲーム」だと言われていて、ポーカーゲームで人工知能(AI)が人間に勝つのは難しいとされていました。
一方将棋やチェスは「完全情報ゲーム」と言われ、すべての意思決定点において、これまでにとられた行動や実現した状態に関する情報がすべて与えられている展開型ゲームなので、情報処理能力が人間より格段に優る人工知能(AI)が勝つものとされていました。
たしかにポーカーでは相手の手札は見えないですし、相手の心理が重要なファクターにもなるゲームですからね。
木原氏は、ポーカーは「運」の要素が強く作用するゲームだと解説していました。ただし「運」は確率で説明されることは解説しました。
それゆえいかに「負け」を小さくするかを重点的に考えるそうです。つまり、ポーカーで勝ち続けるには、いかにして負けを少なくするかが大事だということです。
ポーカープレイヤーとしては、「勝ち」の追求よりも「いかに負けるか」のほうが大事だそうです。
この「いかに負けるか」という表現がポイントですね。
手札や心理戦(心の読み)などで、勝負を降りたほうが確率的にみて合理的な場合があるということを認識することが、ギャンブルの世界で長く生き続けるのに必要なことだと木原氏は力説していました。
勝ちに固執すると、必ずと言っていいほどリターンに対してリスクが大きくなりすぎてしまうのだそうです。
すごく投資やトレードに通じるところがあります。
木原氏いわく
と考えるそうです。
例えば100万円損失決定という局面で、頑張って30万円の損失に抑えた場合は、「70万円の勝ち」という発想になるそうです。
「目からウロコ」ですね。常勝プレイヤーのメンタルの強さの一部を垣間見たようです。
逆に、期待値(勝つ確率)50%を上回れば、たとえば60%の期待値があるディールなら勝負する、40%の期待値なら勝負を避けることが大事です。
これは絶対的ルールだそうです。
勝負の世界で「60%の期待値」というのは、かなり高度なチャンスらしいですよ。
また50%以上の期待値があるのに踏み込まないことは、期待値を下げることになると自覚すべきだそうです。
期待値を計るのは、手札の状況、今までのカードの流れ、相手の心理、場の空気、それらを総合的に判断するのでしょうね。それゆえそこで勝てる確率が60%と判断したら勝負に出ないと利益を得られないとのことです。
こういう考え方をするのですね。
常に勝ち続けられるようになるためには、絶対に必要な思考のようですね。
負けないためにあらゆる可能性を探る
これが勝負の原則です。期待値が高くても、それが出る確率が低ければ勝てません。
確率が「運」と定義されていますから、「運がよければ」とは「確率が高い」ところで勝負するということで、高い期待値になる確率が高ければ勝負できるという判断するのです。
それゆえ、複数の可能性を常に想定し、一つの方法だけに固執することなく、想定できるケースの出現率を把握して勝負するかどうかを判断するのだそうです。
ポーカーゲームで言えば、自分の手札から想定されるいくつかのハンド(日本語では役、手役)それぞれの出現率が最も高い手札が、相手の手札よりも強ければ勝負し、相手の手札よりも弱いハンド(役)が出る確率が高ければ勝負を避けます。
つまり、期待値がリスクを上回れば勝負、下回れば逃げるということで、投資でのリターンとリスクの関係でも言えることですね。
この大原則を忘れてはならないということだそうです。
これを瞬時に判断されるようですが、投資においては、この部分を十分に時間をかけて検証すれば「勝てる」と言えそうです。
「勝ち」と「負け」の心得
「勝つ」局面では、「勝つ」とわかっている、あるいは「勝ち」に十分な確信が持てるときは、リスクを取ってでも大きく利を伸ばそうと努力しなければいけないと、木原氏はおっしゃっておられます。
逆に、負けているときは「戦略や手を変えてはいけない」というのが、木原氏のルールだそうです。
負けているときに手法を変えるのはダメ
ころころ手法を変えると何が原因で負けるのかがわからなくなる
トレードで言えば、勝てないときほど手法に走り、手法をやたら変えたがるということに繋がるのでしょう。
負けているときこそ、その要因を客観的に把握することが大事で、勝ち続けるためには、次から同じ失敗をしなければ良いのだということです。
ポーカーゲームで心掛けておられることは、負けているときは手法を変えるのではなく対戦相手のレベルを下げるか、場合によってはベット(掛け金)を下げることも必要だとのことです。
また常識のようによく
と言われますが、これは初心者が考えることで、この考えは間違いで、どんな方法であっても勝てるようにしなければならない、それがプロだと木原氏はおっしゃっておられました。
厳しいですね。
つまりどんな局面でもどんな環境でも、手法に関係なく勝てなければダメだということですね。
ということも強調されていました。
また確率の話でこのようなことをおっしゃっておられました。
100万円を1億円にすることは夢ではない、確率的にはありえる話だそうです。
またこのようなこともおっしゃっておられました。
「よく500万円や1000万円になったらギャンブル(orトレード)をやめればいいのにという話を聞きますが、1000万円で逃げ切る人は絶対に1億円は作れない。」
「1000万円や5000万円でやめないような人が1億円を作ることができ、財産をゼロにするような人だから100万円を1億円にすることができるのだ」
妙な説得力がありますね。
日本人プロポーカープレイヤー木原直哉氏の講演を、この場で皆さんとシェアさせていただきましたが、皆さんはどうお感じになられましたか。
私は非常に感じ入るところばかりで、とても有意義な講演だったと思いました。
他業種に学べ、業界以外の人の経験談に耳を傾けろとよく言われましたが、今回はまさに、ゲームにおいて、日本だけでなく世界で大活躍されている方の考え方を垣間見ることができました。
是非、投資やトレードの場に生かせてもらえばと思います。
神頼みだけでは、財布を買い換えただけではお金は殖えないそうですよ。(執筆者:原 彰宏)