
家族信託は、いったん組んでしまえば財産の管理が楽になる仕組みです。ところが実際には、走り出す前の詰めで止まってしまう例が目立ちます。原因は信託そのものの欠陥ではなく、契約の作り方や財産の選び方にあります。始める前に見ておきたい落とし穴を紹介します。
つまずきの多くは、契約を結ぶ前後で起きる
信託は、契約を結ぶ方法、遺言でする方法、自分の財産を自分で管理すると書面などで意思表示する方法の3つで始まります(信託法3条)。このうち家族信託の大半は契約です。
契約書はひな型を写せば済むものではありません。誰のどの財産を、誰に、どんな目的で託し、誰が利益を受けるのか。ここが特定されていないと、預金の移し替えや不動産の登記で行き詰まります。自分たちで作った書面が、いざ手続きの段になって使えないと分かる形です。
もうひとつ多いのが、家族の合意を取らないまま進める形です。信託では特定の子が受託者として財産を預かるため、事情を知らされなかった他のきょうだいが不信感を抱くことがあります。契約自体は当事者だけで結べますが、後の関係が壊れます。
不動産を入れるときは、税と担保を先に見る
信託財産に賃貸物件を入れる場合、税の扱いに気をつける必要があります。信託から生じた不動産所得の損失は、なかったものとみなされます(租税特別措置法41条の4の2第1項)。つまりその赤字は、信託の外にある給与などの所得と差し引きできません。
対象は信託から生じた不動産所得の損失で、あらゆる損失が通算できなくなるわけではありません。それでも、赤字が出る前提で回している物件では影響が大きく出ます。
住宅ローンなどの担保が付いた不動産も、そのまま入れるわけにはいきません。名義が受託者へ移るため、借入をしている金融機関への事前の確認が欠かせません。

預金を託す場合は、信託財産とわかる形の口座を用意することになります。この口座を作れるかどうかは金融機関によって扱いが異なるため、契約書を仕上げる前に問い合わせておくと安全です。
30年で切れる線と、1年で終わってしまう状態
受益者が亡くなったら次の人へ、と順に承継させる設計には期限があります。信託がされた時から30年を過ぎた後に受益権を取得した受益者が亡くなるまで、またはその受益権が消滅するまで、というのが条文の線です(信託法91条)。孫、ひ孫と際限なく指定できる仕組みではありません。
もうひとつ、受託者が受益権の全部を自分の固有財産として持つ状態が1年続くと、信託は終了します(信託法163条2号)。受託者と受益者が同じ人に寄ってしまう設計は、意図せず終わりを迎えることがあります。
詰まる場所が分かっていれば、順番を組み替えられる
家族信託で止まる場面は、契約書の詰め、財産の選び方、家族の合意の3つに集約されます。裏を返せば、託す財産を決める前に金融機関と税の確認を済ませ、家族に説明してから契約書を作るという順番にすれば、多くは避けられます。設計そのものが専門的なので、契約書を作る段階では司法書士や弁護士など専門家の手を借りるのが現実的です。


