
「遺言書さえ用意しておけば、あとは家族がやってくれる」と考えていませんか。ところが遺言の中身によっては、書いただけでは手続きが1歩も進まないものがあります。カギを握るのが遺言執行者という役割です。全員に必要なわけではありませんが、置かなかったために家族が困る場面は確かにあります。
遺言執行者は必ず置くものではない
遺言執行者は、遺言の内容を実現するために動く人です。民法1012条は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を持つと定めています。
置くかどうかは遺言者の自由で、法律上は必須ではありません。財産を誰にどれだけ渡すかを書くだけの遺言なら、相続人だけで手続きを終えられることもあります。
ただし遺言執行者がいる場合、相続人は遺言の執行を妨げる行為ができなくなります(民法1013条1項)。これに反した行為は無効とされ、勝手に不動産を売るといった動きを止められます。ただし無効であることを、事情を知らない第三者には主張できません(同条2項)。置いておく実際的な効き目は、この歯止めにあります。
なお遺言執行者が、遺言執行者であることを示して権限内で行った行為は、相続人に対して直接その効力を生じます(民法1015条)。相続人の代理人という位置づけではなく、遺言の内容を実現する立場だと押さえておくとわかりやすいでしょう。
執行者がいないと進まない手続きがある
見落としやすいのが、置くかどうかを選べない場面があることです。次の2つは、遺言執行者がいなければ手続きそのものが進みません。
1つ目は遺言による認知です。認知は遺言でもできますが(民法781条2項)、届け出るのは遺言執行者だと戸籍法64条が定めています。
2つ目は遺言による推定相続人の廃除です。民法893条は、遺言で廃除の意思が示されたとき、遺言執行者が家庭裁判所に請求しなければならないとしています。
さらに遺言執行者がいるときは、遺贈の履行は遺言執行者だけが行えます(民法1012条2項)。相続人以外の人に財産を渡す遺言を書くなら、置いておく意味は大きくなります。
選べる人と、選べない人

指定の仕方は遺言書に書くのが基本ですが、誰にするかの指定を第三者に委託することもできます(民法1006条)。遺言に書かないまま亡くなった場合でも、利害関係人が家庭裁判所に選任を請求できます(民法1010条)。
報酬は遺言で定めておけばそれによります。定めがなければ家庭裁判所が決めることもできます(民法1018条)。
迷ったら、遺言の中身から逆算する
置くべきかどうかは、財産の多さではなく遺言に何を書くかで決まります。認知や廃除、相続人以外への遺贈を書くなら、執行者は事実上欠かせません。財産の分け方だけを書くのであれば、家族の関係しだいで判断すれば十分です。書き終えてから慌てないよう、内容が固まった段階で一度確かめておきましょう。


