
「父の遺言に、私の名前が執行者として書いてありました」。お盆に実家で遺言書を開いた人から、こんな相談が寄せられます。断ることもできますが、引き受けると決めた瞬間から動き出す期限があります。何をいつまでにやるのか、順番に確かめておきましょう。
遺言に名前があった50代会社員の戸惑い
「父の遺言に、私の名前が遺言執行者として書いてありました。何をすればいいのか、まったく見当がつきません」。関東在住の50代会社員は、実家の仏壇から出てきた遺言書を前に立ちすくんだといいます。
遺言執行者は、遺言に書かれた内容を実現するために動く人です。指名されたからといって、自動的に就任するわけではありません。引き受けるかどうかは本人が決められます。
ただし承諾すると、民法1007条1項により直ちに任務を行わなければならなくなります。「落ち着いてから」は通りません。
選ばれ方は3つある
指名のされ方は1通りではありません。

遺言に執行者の記載がないときや、指定された人が亡くなっているときは、利害関係人が家庭裁判所に選任を請求できます。指名された人が引き受けられない場合も、この道が残っています。
承諾したら、まず通知と目録
引き受けると決めたあとの流れは、法律に順番が書かれています。
最初にやるのが相続人への通知です。民法1007条2項は、任務を開始したときは遅滞なく遺言の内容を相続人に通知しなければならないと定めています。誰が何を受け取る遺言なのかを、相続人が知らないまま手続きが進む状態をつくらないための決まりです。
次が財産の把握です。民法1011条1項により、遅滞なく相続財産の目録を作成して相続人に交付します。相続人から請求があれば、その立会いのもとで作るか、公証人に作ってもらう必要があります(同条2項)。
そのうえで、遺言の内容に沿って名義変更や引き渡しを進めます。遺言執行者がいるときは、財産を渡す遺贈の履行は執行者だけが行えます(民法1012条2項)。
ここで急ぐ場面もあります。遺言に認知が書かれていた場合、遺言執行者は就職の日から10日以内に、認知に関する遺言の謄本を添えて届け出なければなりません(戸籍法64条)。ここだけは日数がはっきり区切られており、就職の日が起算点になります。
推定相続人の廃除が書かれていたときは、遺言の効力が生じたあと遅滞なく家庭裁判所に請求します(民法893条)。どちらも執行者でなければ進められない手続きです。
自分で抱えきれないときは、自己の責任で第三者に任務を行わせることもできます(民法1016条)。遺言に別の定めがあればそれに従います。
引き受ける前に、遺言の中身を読み込む
執行者の仕事量は、財産の額よりも遺言に何が書かれているかで決まります。分け方だけの遺言なら通知と目録で見通しが立ちますが、認知や廃除が入っていれば期限のある手続きが加わります。承諾する前に中身を最後まで読み、重いと感じたら弁護士や司法書士などの専門家に相談してから決めましょう。


