
帰省して親と過ごすと、実家や預金をこの先どう管理していくのかが気になります。家族信託という言葉を聞き、うちにも要るのだろうかと迷う方は少なくありません。ただ、必要になるのは条件がそろった家庭に限られます。向くかどうかは、財産の中身と家族の顔ぶれで、思いのほかはっきり分かれます。
実家の名義が決まらないまま帰省を重ねる40代の迷い
「母はまだしっかりしています。ただ、実家をこの先どうするかは何も決まっていなくて。」都内で働く40代の会社員が、盆休み明けにそう漏らしました。地方の実家は母の名義で、賃貸に出すか売るかの話も止まったままです。
信託は、財産を持つ人が信頼できる相手に、一定の目的に従って財産の管理や処分を任せる仕組みです。財産を託す人を委託者、信託財産に属する財産の管理や処分などを担う人を受託者、受益権を有する人を受益者といいます(信託法2条4項から6項)。この受託者を家族が担う設計は、一般に家族信託と呼ばれます。
始め方は3つあります。相手と契約を結ぶ方法、遺言でする方法、自分の一定の財産について一定の目的に従って自ら管理・処分などをする旨を、公正証書などの書面または電磁的記録で意思表示する方法です(信託法3条)。なお、受託者が自分の利益だけを図る目的では信託になりません(信託法2条1項)。
検討する価値があるのは、動かせない財産を抱えている家
向いているのは、持ち主本人でなければ動かせない財産があり、それを本人以外の手で回す必要が出てくる家です。典型は実家などの不動産です。売却も賃貸も名義人の判断が要るため、判断できない状態になると手が止まります。
本人の預金を本人の介護費用や施設費用に充てたい場合も同じ筋です。受託者の名義で管理していれば、家族が立て替えて後から精算する形を避けられます。
賃貸物件のように収益を生む財産があるとき、あるいは自分の次に誰へ渡すかまで決めておきたいときにも、信託の設計が役に立ちます。
託す財産も相手もいないなら、急ぐ話ではない
一方、管理を任せるほどの不動産や金融資産がなければ、わざわざ仕組みを作る意味は小さくなります。すでに生前贈与で名義を移し終えている場合も同じです。
見落とされがちなのが、受託者を誰にするかです。信託は、財産を託せる家族がいて初めて成り立ちます。頼める相手が見当たらない、あるいは親族の関係がこじれていて任せきれないなら、無理に選ぶ場面ではありません。

決め手は制度の良し悪しではなく、家の事情
家族信託は、使えば得をする商品ではなく、財産を動かす権限をあらかじめ家族へ移しておく設計です。動かしたい財産があること、任せられる家族がいること、その家族の間で合意が取れていること。この3つがそろっていれば検討する価値があります。ひとつでも欠けているなら、まずは財産の一覧を作り、誰に何を任せたいのかを家族で話し合うところからで十分です。


