
お盆に親族が集まると、財産の行き先が話題に出ることがあります。長く世話をしてくれた姪、身寄りのない友人、応援してきた団体。法定相続人ではない相手に何かを残したいと思っても、黙っていればその希望は形になりません。遺言で財産を渡す「遺贈」なら、渡す相手と渡すものを自分で決められます。相続人の話し合いに委ねるしかない、というわけではありません。
遺言があれば、相続人以外へも財産は動く
民法は、遺言者が包括または特定の名義で、その財産の全部または一部を処分することができると定めています(民法964条)。この遺言による財産の処分が遺贈で、受け取る人を受遺者と呼びます。受遺者に法定相続人であることは求められておらず、親族以外の人や法人を指定することもできます。
相続との違いは、渡す相手を誰が決めるかにあります。相続では法律の定めた相続人へ財産が移りますが、遺贈では遺言者が相手を選びます。生前贈与と違って相手の合意を取りつける必要はなく、効力が生じるのは遺言者が亡くなったときです。気が変わったときは、いつでも遺言の方式に従って全部または一部を撤回できます(民法1022条)。
包括遺贈と特定遺贈で、渡るものが変わる
遺贈には2つの型があります。財産の全部や割合を示すのが包括遺贈、渡す財産を名指しするのが特定遺贈です。どちらを選ぶかで、受け取る側が背負うものが変わります。

包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有します(民法990条)。プラスの財産だけでなく債務も割合に応じて引き継ぎ、遺産分割の話し合いにも加わることになります。「財産の3分の1を渡す」と書くだけで、相手に相続人と同じ立場を背負わせる形です。渡す相手の負担まで考えるなら、対象を名指しする特定遺贈のほうが原則として軽く済みます。
遺贈を書く前に確かめておきたいこと
兄弟姉妹以外の相続人には遺留分があり、遺贈がこれを侵害すると、遺留分権利者から遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求されることがあります(民法1046条)。財産の全部を第三者へ渡す内容にすると、残された家族との争いの種になります。
税の扱いも変わります。被相続人の一親等の血族(代襲相続人となった孫を含む)と配偶者以外の人が財産を取得した場合、その人の相続税額に2割に相当する金額が加算されます。姪や友人へ遺贈するなら、受け取る側の負担が重くなることを先に伝えておきたいところです。
方式にも注意が要ります。2026年6月24日に公布された民法等の一部を改正する法律で自筆証書遺言等の押印要件は廃止される予定ですが、施行日は公布から1年を超えない範囲内で政令で定める日とされ、2026年8月17日時点では施行されていません。今のうちに書くなら、押印は省かないでください。
遺贈は元気なうちにしか形にできない
遺贈は、法定相続人ではない相手へ財産を渡せる仕組みで、包括か特定かで相手の立場が変わります。遺留分と相続税の2割加算は、渡す前に見ておきたいところです。判断能力が落ちてからでは遺言そのものを書けなくなります。誰に何を残すかを決めるのは、元気なうちにしかできない仕事です。


