
親の物忘れが増えてきたと気づくのは、お盆の帰省のようなタイミングです。後見には入口が2つあり、どちらを通るかは判断能力が落ちる前か後かで決まります。支える人を本人が指名できるのは、判断能力が十分なうちにあらかじめ備えていた場合だけです。分かれ道を押さえて、まだ言葉を交わせるうちに家族で話しておきましょう。
分かれ道は、判断能力が落ちる前か後か
親の預金や実家の名義に手をつける場面が来たとき、通れる道は2本しかありません。判断能力があるうちに本人が契約で決めておくか、判断能力が低下した後に家庭裁判所へ申し立てるかです。前者が任意後見、後者が法定後見と呼ばれます。

同じ後見でも、決定権の置き場所が違います。法定後見では、家庭裁判所が後見開始の審判をするときに職権で成年後見人を選任します(民法843条)。家族が候補者を挙げることはできても、決めるのは裁判所です。
落ちる前なら、相手と範囲を先に決めておける
任意後見は契約なので、誰に何を任せるかを本人が書き込めます。ただし形式は自由ではありません。法務省令で定める様式の公正証書によることが必要です(任意後見契約に関する法律3条)。公証役場を通す手間はかかりますが、その手間が後の決定権を確保します。
契約しただけでは動き出しません。判断能力が不十分な状況になった後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点から効力が生じます。任せきりにもなりません。任意後見人の事務は監督人が監督し、監督人は家庭裁判所へ定期的に報告します(同法7条)。
先に契約しておく強みは、後から法定後見に上書きされにくいことです。任意後見契約が登記されている場合、家庭裁判所が後見開始の審判等をできるのは、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限られます。
落ちた後は、家庭裁判所が制度と人を決める
法定後見では、判断能力の程度によって使える制度が振り分けられます。不十分なら補助、著しく不十分なら保佐、欠く常況なら後見です。申立ては本人や配偶者、四親等内の親族などが本人の住所地の家庭裁判所へ行います。補助開始の申立てでは、申立手数料として収入印紙800円分が必要です。ただし、補助開始の審判には同意権または代理権を与える審判を同時に申し立てる必要があり、いずれか一つなら収入印紙800円分、双方なら1,600円分が加算されます。登記手数料としては収入印紙2,600円分も必要です。本人以外が申し立てるときは本人の同意が要ります(民法15条2項)。
この振り分けは将来なくなります。2026年6月24日に公布された民法等の一部を改正する法律で、後見と保佐は廃止され、必要な事項について代理権や取消権を与える補助の制度へ一元化されます。施行日は公布から2年6月を超えない範囲で政令が定めるとされ、2026年8月17日時点では施行されていません。いま動くなら現行の3つで考え、将来は1つに寄ると押さえておけば足ります。
選べる余地があるのは、言葉を交わせるうちだけ
任意後見は判断能力があるうちに相手と範囲を決める道、法定後見は落ちた後に家庭裁判所が制度と人を決める道です。選べる余地は前者にしかありません。その日のうちに公証役場まで行く必要はないので、親の通帳や実家の話が出たときに、どちらの道を想定しておくかだけでも家族で確かめておきましょう。


