
実家が空いたので売って施設の費用に充てたい、という話はよく出ます。親の判断能力が落ちていると、この売却は代わりに動く人がいなければ進みません。そこで成年後見の申立てを考えることになります。ただし後見は、目的が済んだら閉じられる手続きではありません。今の制度では、判断能力が回復しない限り利用をやめることができません。
後見が始まると、財産は本人のためだけに使う
後見人は、被後見人の財産を管理し、その財産に関する法律行為について被後見人を代表します(民法859条)。事務を行うにあたっては本人の意思を尊重し、心身の状態や生活の状況に配慮しなければなりません(民法858条)。判断の基準は一貫して本人の利益で、家族の都合はここに入りません。
そのため、家族のための生前贈与や資産の組み替えといった相続の準備は、後見が始まってからでは進めにくくなります。元気なうちに考えていた段取りが、後見の開始とともに止まることがあるということです。
居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が要る
後見人がついても、実家をすぐに売れるわけではありません。成年後見人が本人に代わって、その居住の用に供する建物または敷地について売却、賃貸、賃貸借の解除、抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法859条の3)。

報酬が発生する場合もあります。家庭裁判所は、後見人と本人の資力その他の事情によって、本人の財産の中から相当な報酬を後見人に与えることができます(民法862条)。裁判所も、後見人等の報酬は家庭裁判所が付与の当否と金額を決定し、本人の財産から支払われると案内しています。額は事案ごとに家庭裁判所が決めるため、事前に自分で見積もることはできません。
目的が済んでも、今の制度ではやめられない
裁判所は、後見等が開始されると、申立てのきっかけとなったことが解決した後も、本人の能力が回復するか本人が亡くなるまで手続は続くと案内しています。遺産分割や実家の売却のために始めても、それが済んだら終わりにはならないのが通常です。後見人の交代も簡単ではありません。解任の事由は、不正な行為、著しい不行跡、その他後見の任務に適しない事由とされています(民法846条)。
こうした現状について、制度改正が進められています。2026年6月24日に公布された民法等の一部を改正する法律では、後見と保佐を廃止して補助に一元化した上で、判断能力が回復していない場合でも制度利用の必要がなくなったと家庭裁判所が認めるときは利用を終了できるようになります。補助人については、本人の利益のために特に必要があるときに解任できるようになります。成年後見制度の見直し部分の施行日は、公布の日から2年6月を超えない範囲で政令が定めるとされ、2026年8月17日時点ではまだ現行制度にはなっていません。
後見は入口ではなく、続く仕組みとして考える
後見が始まると、財産は本人のためだけに使われ、居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が要り、報酬が付与される場合は本人の財産から支払われます。目的を果たしたら畳める制度ではありません。改正で終了や補助人解任の道は開きますが、成年後見制度の見直し部分の施行はまだです。一度きりの用事のために使う前に、他に手がないかを確かめておきたいところです。


