
父の相続の話がまとまらないうちに、今度は母が亡くなりました。そんなとき、母が持っていた、父の遺産を継ぐか放棄するかを決める立場は子に移ります。手続きが二重になるだけだと思いがちですが、単に手続きの量が増えるだけではありません。期限の3か月をどこから数えるかも動きます。父が亡くなった日から3か月で締め切られるわけではありません。
決める役は、母から子へそのまま引き継がれる
亡くなった人の権利や義務は、相続開始の時に相続人へ移ります(民法896条)。父が亡くなった時点で、母は父の遺産を継ぐか放棄するかを選べる立場に立ちました。その母が選ばないまま亡くなると、この「選べる立場」ごと子が引き継ぎます。これが再転相続と呼ばれる状態です。
ここで子が向き合うのは、母の相続だけではありません。母から引き継いだ父の相続をどうするか、母自身の相続をどうするか、二つの相続の問題に向き合うことになります。
似た言葉に代襲相続がありますが、こちらは被相続人の子が相続の開始以前に亡くなっていたときに、その子である孫が代わって相続人になる仕組みです(民法887条2項)。亡くなったのが相続開始より前か後かで、決める人が変わります。
3か月は「母から父の相続人の立場を引き継いだと知った時」から
民法916条は、相続人が承認も放棄もしないで亡くなったとき、この期間を「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」から起算すると定めています。この一文がどの時点を指すのかは長く争われ、最高裁が令和元年8月9日に解釈を示しました。
判決は、亡くなった人の相続人が、その人が承認も放棄もしなかった相続における相続人としての地位を自己が承継した事実を知った時だとしています。母が亡くなったと知った日ではなく、母から父の相続人としての地位を自分が引き継いでいたと知った日が出発点だということです。母自身が父の相続人だと知っていたかどうかは問わない、とも判決は述べています。
母の相続のほうは通常どおり、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内です(民法915条1項)。
間に合わないときの逃げ道と、決めた後に残る手続き
調べても判断がつかないときは、3か月以内に家庭裁判所へ期間の伸長を申し立てられます(民法915条1項ただし書)。申立てができるのは利害関係人と検察官で、相続人本人も利害関係人に含まれます。
不動産があるなら、承認した後に相続登記が控えています。令和6年4月1日から、相続で不動産の所有権を取得したと知った日から3年以内の申請が義務になりました。正当な理由なく放置すると10万円以下の過料が科されることがあります。話し合いが長引きそうなら、相続人申告登記という簡易な申出でいったん義務を果たす道もあります。

慌てて書類を集める前に、起算日を確かめる
二人分の相続が重なると、戸籍の量にばかり気を取られます。先に押さえたいのは、母から父の相続を決める立場を自分が引き継いだと知ったのがいつか、その一点です。そこから3か月以内の熟慮期間が動き出します。父の死亡日から数えて「もう過ぎている」と諦める前に、通知や書類が届いた日を確かめてみてください。それでも足りないと感じたら、3か月以内に期間を伸ばす申立てを検討してください。


