
賃貸の契約のとき、言われるままに火災保険の申込書へ記入した方もいるのではないでしょうか。それでも、自分の部屋から火を出したら隣の部屋や大家にどこまで償うのかは、あいまいなままになりがちです。実は、隣の家への責任と大家への責任では、よりどころになる法律が違います。
火元になったときの責任は、相手ごとに分かれる
部屋から出た火が燃え広がったとき、償う相手は2つに分かれます。隣の部屋や近所の家など契約の外にいる第三者と、部屋を貸している大家(貸主)です。たとえば、隣の部屋の家具が焼けたなら第三者への責任、借りている部屋そのものが焼けたなら大家への責任の話になります。まず隣の家、次に大家、最後に保険の順に見ていきます。

隣の家への責任を分ける「重大な過失」
よりどころは、明治32年の失火ノ責任ニ関スル法律(失火責任法)です。過失で他人に損害を与えれば民法709条の不法行為の規定で賠償するのが原則ですが、この法律は、その規定を失火の場合には適用しないと定めています。ただし、火を出した人に重大な過失があったときは、この限りではありません。
何が重大な過失かについて、最高裁判所は、わずかな注意で結果を簡単に予見できたのに漫然と見過ごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意の欠如を指すとしています(昭和32年7月9日判決)。賠償を求める側が重大な過失を立証する必要がある、とも述べています。この事件では、出火当時の気象や焚火の場所、監視の状況などを踏まえ、重大な過失には当たらないとされました。
大家に対しては、契約の側の責任が残る
見落としやすいのが、失火責任法が外すのは不法行為の責任だという点です。大家との関係は賃貸借の契約で、民法上、借りた人は契約が終わったときに部屋を返し、受け取った後に生じた損傷について原状回復の義務を負います(通常の使い方による損耗や経年変化は除きます)。ただし、借りた人の責めに帰することができない事情による損傷なら、この義務は負いません。
最高裁判所は、借りていた工場が火事で失われた事件で、民法709条の適用を外す失火責任法は、債務不履行による損害賠償には適用されないと判断しました(昭和30年3月25日判決)。国土交通省が掲載する相談対応事例集も、居住者の過失で建物を傷めた場合、貸主に対しては賃貸借契約にもとづいて損害賠償責任を負うとしています。
契約時に加入を求められる保険について、同じ事例集は、法令による強制ではないものの、契約の条件なら原則として受け入れる前提で契約するとしています。多くの場合に求められる住宅総合保険では、貸主の建物のほか借主の家財も補償されることが多いとしています。
契約書と保険証券で、補償の相手を見ておく
隣の家への責任は重大な過失の有無が分かれ目になり、大家への責任は契約の側で考えます。まずは契約書で火事を出したときの扱いと求められている保険を、次に保険証券で補償の対象が自分の家財か、大家か、隣の人かを確かめておきましょう。分からない点は、契約の相手やお住まいの自治体の消費生活センターに尋ねると落ち着いて備えられます。


