
お盆の帰省で実家の片づけを頼まれたら、その手が相続の選択を左右することがあります。親に借金があるかもしれないとき、遺品や預金に触れた行為が「処分」と見なされると、相続放棄はできなくなります。期限は3か月。何が線を越えるのかを、押し入れを開ける前に家族で確かめておきましょう。
親の借金を聞かされて動けなくなった50代会社員
「父に借金があったかもしれない、と葬儀の席で言われまして」。関西で働く50代の会社員は、父を見送った翌週から、実家の押し入れの前で手が止まるようになりました。督促状らしき封筒は見えたものの、相手も金額もわかりません。
親戚には早く片づけろと急かされます。ただ、先に決めるべきなのは片づけの段取りではなく、相続をどう引き受けるかです。相続人には3つの選び方があり、どれを選ぶかで背負う借金の重さが変わります。

3か月の数え始めは、亡くなった日ではない
期限の起算点を思い違いすると、それだけで選べる道が減ります。民法915条が定めているのは「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」で、死亡した日ではありません。疎遠だった親の死を後から知らされた場合も、そこから数えます。
この3か月は熟慮期間と呼ばれ、財産の調査にあてる期間でもあります。それでも借金の全体像がつかめないときは、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てられます。申立てができるのは相続人を含む利害関係人と検察官です。この申立て自体も、3か月以内にする必要があります。
なお、いったんした承認や放棄は、3か月の期間内であっても撤回できません。3か月を過ぎてしまったときの扱いは事情によって判断が分かれるため、自己判断で諦めず窓口に相談してください。
「処分」に当たる行為が、放棄の道をふさぐ
民法921条は、次の3つの場合に単純承認をしたものとみなします。1つ目は、相続財産の全部または一部を処分したとき。2つ目は、3か月の期間内に限定承認も相続放棄もしなかったとき。3つ目は、限定承認や相続放棄をした後であっても、相続財産を隠したり、勝手に消費したり、悪意で財産目録に載せなかったときです。
見落としやすいのが1つ目のただし書です。保存行為と、民法602条に定める期間を超えない賃貸は、処分から除かれています。602条の期間は、樹木の栽植または伐採を目的とする山林なら10年、それ以外の土地なら5年、建物なら3年、動産なら6か月です。財産の価値を保つ行為まで封じられているわけではありません。
一方で、どこまでが保存行為かは、行為の中身と事情で判断されます。預金を引き出して生活費にあてる、家財を売る、値の付く品を形見として持ち帰るといった行為は、処分と評価される余地があります。
片づけを始める前に、家庭裁判所の窓口へ
親の借金が気になるうちは、押し入れを開ける手を一度止めてください。迷ったら、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所の手続案内で、いま何をしてよいかを確かめられます。3か月は、相手を調べているうちに過ぎます。片づけの順番より先に、どの道を選ぶかを家族で話し合っておきましょう。


