
夏の帰省で、父を亡くしひとり暮らしになった母の将来が気になることはないでしょうか。夫の死後は、死亡届や年金、相続など期限のある手続きが次々と続きます。知らないままでは、受け取れるお金や大切な権利を逃しかねません。高齢の母がひとりで抱え込む前に、遺族年金を含め、残された妻に必要な手続きの全体像を整理します。
期限が決まっている届出と、見落としやすい未支給年金
夫が亡くなると、悲しむ間もなく期限のある届出が続きます。死亡届は死亡を知った日から7日以内に市区町村へ提出し、世帯主が亡くなった場合の世帯主変更届は変更のあった日から14日以内が原則です。ただし、残るのが妻だけ、あるいは妻と15歳未満のお子さんだけといったように次の世帯主が自動的に決まるときは、世帯主変更届は必要ありません。
年金を受けていた方が亡くなったときは、受給を止めるための受給権者死亡届も必要です。厚生年金は10日以内、国民年金は14日以内が目安ですが、日本年金機構にマイナンバーが収録されていれば原則として省略できます。
あわせて忘れやすいのが未支給年金です。亡くなった月分までの年金で受け取っていないものは、生計を同じくしていた遺族が請求でき、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、その他3親等内の親族という順に権利があります。請求できる時効は、年金支払日の翌月初日から5年です。
遺族年金を受け取れる人と「子」の年齢要件
夫を亡くした妻の暮らしを支える柱が遺族年金です。遺族基礎年金は、亡くなった方に生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」が対象で、ここでいう子とは18歳になった年度の3月31日までにある子を指します。障害等級1級・2級に当たる場合は20歳未満まで対象です。「18歳未満」ではない点に注意しておきましょう。
会社員などが加入していた場合は、遺族厚生年金があります。受け取れる順位は、子のある配偶者、子、子のない配偶者、父母、孫、祖父母の順です。この子の年齢の考え方は遺族厚生年金でも同じです。
現行制度には男女差があり、子のない30歳未満の妻は5年間の有期給付となります。また、子のない夫や父母、祖父母は55歳以上の方に限って受給権があり、実際に受け取れるのは原則60歳からです。母親が受け取る立場では手厚い一方、制度の前提を知らないと受け取り漏れが起きやすい部分です。
令和8年度の遺族年金額と生活者支援給付金
金額の目安も押さえておきましょう。令和8年度(2026年4月分から)の遺族基礎年金は、子のある配偶者で年額84万7,300円です(昭和31年4月2日以後生まれの場合。それ以前の生まれは84万4,900円)。これに子の加算が付き、1人目と2人目は各24万3,800円、3人目以降は各8万1,300円が加わります。
遺族厚生年金を受ける妻には、40歳から65歳になるまでの間、要件を満たせば中高齢寡婦加算として年額63万5,500円が上乗せされます。さらに、遺族基礎年金を受けている方には、遺族年金生活者支援給付金として月額5,620円(令和8年度)が支給される場合があります。こうした加算や給付金は自動で付くとは限らないため、年金事務所で対象になるかを確認しておくと安心です。
2028年4月に控える遺族厚生年金の見直し
遺族年金は近く大きく変わります。2025年6月に成立した年金制度改正で遺族厚生年金が見直され、施行は2028年4月です。2026年7月時点ではまだ施行されておらず、これまでの制度が続いています。
改正後は、18歳年度末までの子がいない60歳未満の配偶者について、遺族厚生年金が男女とも原則5年の有期給付に整理される予定です。現行では子のない夫は55歳以上に限って受給権があり、受給開始は原則60歳からですが、改正後は60歳未満の男性も5年間の有期給付を受けられるようになる見込みです。有期給付には有期給付加算が付き、給付水準は従来のおおむね1.3倍とされています。
女性側は、2028年度末の時点で40歳未満かつ18歳年度末までの子がない方が有期化の対象で、すでに受給している方や2028年度に40歳以上になる方、60歳以降に受給権が生じる方は影響を受けません。中高齢寡婦加算も、2028年4月以降に新たに加算が発生する方について、25年かけて段階的に縮小される見込みです。今の高齢のお母さまが受け取る分にはこれまでどおりですが、世代によって扱いが変わる点は知っておきたいところです。
見落としがちな一時金と葬祭費、そして準確定申告
年金以外にも受け取れるお金があります。国民年金の第1号被保険者として保険料を納めた月数が36月(3年)以上ある方が、老齢基礎年金や障害基礎年金を受けずに亡くなった場合、生計を同じくする遺族に死亡一時金が支給されます。額は納付した月数に応じて12万円から32万円で、時効は死亡日の翌日から2年です。
葬儀に関わる給付もあります。協会けんぽなどの健康保険では、被保険者が亡くなると、生計を維持されていた方に5万円の埋葬料が支給されます。対象者がいない場合は、実際に埋葬を行った方に5万円の範囲内で埋葬費が支給されます。国民健康保険では葬祭費として、市区町村ごとに定められた額が支払われます。いずれも時効は2年です。
あわせて、年の途中で亡くなった方の所得税は、相続人が準確定申告を行います。期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。
相続の手続きと、母の住まいを守る仕組み
相続の手続きにも期限があります。相続税の申告と納税は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。
相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除があり、これを超える遺産に課税されます。配偶者には税額軽減があり、配偶者が取得した遺産のうち1億6,000万円または法定相続分相当額のいずれか大きい方までは相続税がかかりません。ただし、この軽減を使うには申告が必要です。
遺産の分け方の目安として、配偶者と子が相続人であれば配偶者の法定相続分は2分の1、配偶者の遺留分はその半分にあたる遺産全体の4分の1です。負債が多いなど相続したくない事情があるときは、相続の開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所へ相続放棄を申述します。判断が間に合わないときは、期間の伸長を申し立てることもできます。また、2020年4月1日以後に開始した相続では、遺産分割などで配偶者居住権を取得できる場合があるほか、要件を満たせば最低6か月は無償で住み続けられる配偶者短期居住権もあります。
遠くに暮らす母のために、帰省の機会にできること
夫を亡くした後の手続きは、届出、年金、給付金、相続と幅広く、しかもそれぞれに期限があります。高齢のお母さまがひとりで抱えきると、受け取れるはずのお金や大切な権利を逃しかねません。
帰省で顔を合わせるこの機会に、加入している年金や健康保険、通帳や保険証券の在りかを一緒に確認し、いざというときの相談先を決めておくだけでも安心につながります。制度は2028年に向けて動いてもいます。迷ったら、年金事務所や市区町村の窓口、専門家に早めに相談しておきましょう。


